09


誰かが呼ぶ。
真っ暗な世界で私の名前を誰かが呼んでいる。
私を拾ってくれた先生の声のようにも聞こえるし、引き取ってくれた両親の声のような気もする。

なまえ、なまえ。
こちらにおいで。

優しい声が私の意識を抱き締めて消えた。



***



「なまえさん!なまえさんしっかりして!!」

「あ゛、ぐ…た、ずけ、で…」


抱え直される度に貫かれた体からたくさんの赤が溢れボタボタと地に赤が落ちては染みを作り私と奈落の足元は赤黒い血溜まりが出来ていた。


「なまえどの!」

「奈落、よくもっ」


意識が朦朧とする中、かごめちゃんの声が微かに聞こえ声のする方を目だけ向けるとそこには弓を構えてこちらを狙っている彼女の姿。


「わしを撃つか、なら狙え。」


出来るならばな、そう笑い私の体を盾にする奈落に彼女は苦虫を潰したかのような表情をしていた。盾にされた事により地に足も付かず宙ぶらりんにされズリズリと触手が更に体を抉り痛すぎて声も出ず涙だけが見開いた目から溢れる。

弥勒さんがお札を投げるが蚊を叩き落とすかのように無意味にボロボロと紙切れになり落ちていく。珊瑚ちゃんも飛来骨を投げようとするが私のせいでかごめちゃん同様手を出す事が出来ないでいるようだった。
奈落の目にかごめちゃんたちが映っている。きっと犬夜叉がいない今、かごめちゃんたちは奈落によってやられてしまうかもしれない。そんな事されたら犬夜叉に合わせる顔がない。

いやだ、やめて。



「やめ、やめて、…なんで、もっするか…ら、」


お願いだと、息も絶え絶えな状況で声を振り絞るがもはや聞き取るのもやっとな声の大きさでしか話せない。苦しい、でもかごめちゃんたちが殺される位ならこれくらいどうって事ない。汗が尋常じゃない。その様子を見て笑う奈落に苛立ちが募る。


「言ったな?」


目を細め首に手をかけ、あの時のように力を込めた。瞬間視界はフェードアウト。



***



目を覚ましたら薄暗い和室に無造作に寝かされていた。ゆっくり体を起こし辺りを見回すが私しか居ないらしく、気味が悪い程静まり返っている。驚いた事に声も出ない程痛かった腹の傷が綺麗に消えていて首を傾げる。


「ど、どうなってるの…」


先程の事が丸で夢のようだと感じてしまうがTシャツに開けられた穴とべっとりとついた血に夢でなかった事を知らされる。私の唯一の服がこんな可哀想な事になるだなんて…。
そんな事より私はこれからどうなってしまうのか。

不安でソワソワしていると突如音を立てて開かれる襖にビクリと肩を揺らす。


「よぉ。起きたのかい?」

「か、かぐら…」

「そんな怖い顔すんなよ。アンタの荷物持って来てやったのによ。」

「荷物って?私の荷物なんてなにも無いのに…」

「奈落がアンタのだって言ってんだ。」


ほらよ、と目の前に放り投げられたのは見慣れたボストンバッグ。そうだ、私が現代でよく旅行に行く度に使っていたお供だ。現代にあるはずのバッグが何故こんな処に…?恐る恐るバッグの中身を確認すると中にはTシャツとスウェットパンツが数組入っていた。(底を確認したら下着も入ってた)何これどうなってるの。なんでこれを奈落が持ってるの?なんで?なんで??奈落って時空を超える力持ってるの?最強じゃない?


「なんで奈落がこれを…?」

「アンタを此処に連れて来たら奈落の部屋にあったんだとよ。奈落のでもアタイらのでもないからアンタのだろって。」

「…ねえ神楽も奈落の仲間なの?」

「まぁな。奈落から生まれたんだ、必然的に仲間って枠組みだろうね。」

「わ、私も、そうなの?奈落から生まれたの?」

「…さぁな。」

「絶対おかしいって、だって私現代で生まれてるんだよ。それなのに戦国時代の奈落から生まれたとかおかしいよ!」

「知るかよ。アタイにそんな事言われたって知らないもんは知らないんだよ。アタイより先に生まれてるって事しか知らないんだよ。」

「そ、そんな…」


私は本当に奈落から生まれた謂わば兄弟だと言うのか。
仮に奈落から生まれたとしよう、だとしたら私も神楽や神無のように不思議な力がある筈ではなかろうか?けれど私は大したダメージを与える事もないタックルをおみまいするしか能の無い非力な人間だ。
そんな私が彼らと同様なわけがない。
きっと何かの間違い。そう頭を抱えたが、フと腹部が目に入って青ざめる。そういえば傷が消えていたのを忘れていた。
ガバリと顔を上げると意味深にニヤリと笑う神楽と目が合った。


「そういう事さね。アンタもアタイらと一緒で奈落に心臓を握られてるって事さ。」

「心臓を…?私の命は奈落次第ってこと!?」

「下手な事すると御陀仏だぜ。奈落はこいつらを使って監視してやがるからな。」

「ひぅっ!そ、その虫は奈落の手先だったの…」


羽音を立ててその虫は現れた。何度も対面してはいるがやはり慣れないという事はもう一生この虫とは仲良くは出来ないだろうというかこの虫は奈落のだったのか、だから私や犬夜叉たちは無駄に追いかけられたのだと納得してしまった。
普通の顔して私の肩に乗っかろうとするのを全力で拒否をすると虫にも表情があるのかシュンとした気がした。人間というのはそんな悲しそうな顔をされると心が痛みついつい手を差し伸べてしまうものだ。きっとこの虫も分かっているのだろう、良心が痛んだ私の肩にスン、と止まったのを視界の端で捉えた。