アナタは誰なんですか、


それだけが頭の中でグルグル回って私の体をウズウズさせる。

座学って暇、先生がチョークで黒板に忍術について刻んでいく音を余所に窓の外を眺めているとフワリ、と白が現れた。
最近頻繁に見掛ける白、それを追い掛けるように踏み鋤を担いで滝が私を呼ぶのを無視して教室を飛び出した。


***


「今日も土遊びかえ?」


口元を緩ませ笑う白が居たのは動物たちがいる小屋の前で、こちらに背を向けたまま立っていた。

違う、とその一言だけ呟いてソッと隣に踏み鋤を胸に抱いたまま座るとそこには苦しそうに息をする狼の姿。そういえば竹谷先輩たちが老いた狼がそろそろだ、と言っていた気がする。


ゼェ、ハァ。


老いた狼の子だろう、ペロリと毛を舐め顔をその狼の顔に擦り付ける。
分かってるんだ、きっと。
この子供も親である狼がもう死に際だと言うことを。


「……死んじゃうんですかね」

「生きとし生けるもの全てに始まりがあり終わりがあるものよ」

「この狼も、もう?」

「よう生きとるわ…既に生き絶えてもおかしくはなかろうて」

「……」

「悲しいか?」

「、さあ…」


目の前で寄り添う狼から目が離せない。
そう、なんだか人と人とが悲しみ合い離れるのを拒んでいるようで。


死は怖くはないのか。


ちらりと白を見れば驚くほどその目は冷めていて、だけれど何故か眉間にシワを寄せて口を一の字に結んで二匹を見つめていた。
スラリと綺麗な手が狼に伸びる。すると寄り添うようにしていた子供は一度白を視界に捉えてゆっくりと耳を垂らし後退し、逆に老いた狼は苦しそうに横たわっていたのに伸ばされた手に近付こうと精一杯体を伸ばす。
けれど立てないほど老いたその体は当たり前ながらその伸ばされた手に届くことはない。それでも必死になってその手の元へ向かうのは一体何故か。


「うぬはよう生きた。」


上半身だけを起こしジッと見つめる狼に白は目線を合わせてしゃがみこみ頭を優しく撫で付ける。


「後はわたしに任せよ」


静かに、安らかに。


そう呟いたと同時にカクン、と狼の体が地に落ちた。



「……」

「悲しいか」

「分からないです」

「左様か」

「あの、」

「ではまたいずれ」

「待ってくださいっ」


視界に捉えた白がこちらに目を向ける。


「何用か」


向けられる視線が冷たい。
けれど今を逃すと次は一体いつになるのか分からない。


「アナタの名前を教えてください」

「ほう…」


口元を緩ませる白はクルリと背を向け歩き出す。やはり名前を聞くことは叶わないのか、仕方ないかもしれない。だって私と白には名前など有ってないものなのだから。


「わたしに名など有りはしない」

「な、い?」

「ああ、でも…」


グイッと装束の合わせを掴まれ一気に引き寄せられる。紅い目が私を捉える、その目に見入られていると耳元で囁かれそのまま手を離され瞬きと同時にそれは消えてしまっていた。





(人はたたりと)(わたしを呼ぶ)