#02


『ん…』


なまえが目を開けると見慣れない木造の天井が目に入った。
外から差し込む光をぼーっと見つめ、『私はたしか…』と記憶を辿りハッとしたなまえは体を起こそうとするも肩に激痛が走り体は力なくベッドに逆戻りした。

『銃刀法って何…』

肩に触れると丁寧に包帯が巻かれているのが分かった。
なまえは痛みをぐっとこらえ顔を肩の方へ動かすと包帯の上から患部にキスをした。
少しずつ痛みが和らいでいくのと同時に体力を奪われていく。唇を離すとなまえはフゥと息を吐いて体を起き上がらせた。肩の痛みは消えていた。

暫くそのままベッドに寝転びぼーっと天井を見ていると、ドアがノックされ「失礼する!」と男性の声が聞こえた。


「目が覚めたか」
『あなたは…』

そこには昨日なまえを撃った月島が立っていて、なまえは警戒心をむき出しにする。

「一昨日は部下を助けてくれたというのに手荒な事をしてすまなかった。そんなに警戒するな、と言っても無理か…傷はどうだ?」

月島は罪悪感に頭を下げゆっくりとなまえに近付いた。

『一昨日?』
「昨日一日目を覚まさなかったからな」

なまえは頭を抱えた。

ということは昨日今日と無断で仕事を欠勤していることになる。
一刻も早く帰って謝罪をしなければ。

『手当をしてくださったみたいですが、警察に通報しますからね。銃刀法違反も良いところですよ。傷はもう平気ですからご心配なく。私の上着はどこですか?帰りたいので返してください。』

なまえはもう平気だと証明するように打たれた方の肩をストレッチをするかのようにぐるぐる回した。

それをみた月島はギョッとしたが、咳払いをしてスッと表情を戻した。

「お前の荷物の事もそうだが色々と聞きたいことがある」

聞きたいこと?となまえが首をかしげると、「月島軍曹、彼女は目を覚ましたのか?」とドアの向こうから声が聞こえ、ガチャリと開いた。

『ひっ…』となまえはその男の顔面を見て声を引きつらせる。額あてのような物を被る目元はケロイドのように爛れていた。出そうになった悲鳴を飲み込むため口元を抑えた。そんななまえを気にも留めず月島はその男に敬礼をする。

「申し訳ございません、鶴見中尉殿。連れて出るのに手こずっておりました」
「んん、よいよい。さて、お嬢さん先日は手荒な真似をしてしまい申し訳ない。君にいくつか聞きたいことがあるのだが、良いかな?」

鶴見はベッドのそばの椅子に腰かけるとなまえと目を合わせた。
なまえは鶴見の目元から目が離せずにいるとそれに気付いた鶴見は「気になるかね?前頭葉が吹き飛んでおる。たまに汁が漏れるがね」と笑った。なまえはというとそれ笑い事じゃないような…と目を白黒させた。

「私は帝国陸軍第七師団歩兵27聯隊中尉の鶴見という。君の名前は?」

『みょうじなまえです。って、帝国陸軍ってそんな戦時中じゃあるまいし…』

「ふむ、君は戦争とはかけ離れた場所に住んでいるのかな?」

『そりゃそうですよ。たしかに今でもヴィランが暴れて街がめちゃくちゃにされたりすることもあるけど、戦争なんてそんな明治時代じゃあるまいし』

なまえの話す内容に鶴見と月島は顔を見合わせる。

「時になまえくん、今は何年何月だったかな?」

『今ですか?2020年1月12日です。そんなこと確認しなくても頭は打ってないんで記憶障害はありませんよ』

「なるほど…月島、例のものを出せ」
「はっ」

なまえの答えに笑みを深くすると鶴見は月島から物を受け取る。

『あ!わたしのスマホ!』

それはなまえのスマートホンだった。

「この板は”すまほ”というのか。どうやって使うのかね?」

鶴見の質問になまえは『えっ?』と首をかしげる。

『スマホご存じないんですか?ガラケー派?ここを押すと画面が付きますよ』

なまえは鶴見の手からスマホを取りロック画面を解除する。
アンテナはいまだ圏外ままだ。
鶴見は興味津々にスマホをのぞき込む。少し離れた場所にいる月島も気になるのかそわそわしている。

「先ほど君は今日が2020年だといったが、それは間違いだ」
『え?』

「今は1904年だよ、雄英高校保健指導員みょうじなまえくん」

鶴見は懐からネームタグを取り出しなまえのぶら下げた。
それはなまえが上着のポケットに仕舞っていた雄英高校のセキュリティーカードで名札としても使っていたものである。

この時点でなまえは鶴見はすでに私の名前を知っていて答えさせたのだと気付き軽くにらみつける。

「信じられないかもしれないが、この時代は君にとって100年以上も前の過去ということになる」
「現にすまほも先ほど言っていた個性という奇怪な能力も我々は持ち合わせていない。そんなこと起こりうるのかと私も信じられなかったが、今ここに君がいることがその証明だ。」

なまえは頭を抱えたが、納得できるような気もした。
【らくらくフォン】なんていうお年寄りの方もスマホを使うこのご時世にスマホを知らない、個性を知らない。
歴史の教科書でみたような軍服に長い銃。

なまえは『わかりました』と鶴見を見据えた。

『ここが私にとっての過去なんだと受け止めます。信じられないけど。だとしたら私行く当てがないんですが』
「自分の運命を受け入れるのは大切なことだよなまえくん。後日個性とやらについても詳しく教えてほしい。衣食住は気にすることはない、この部屋をそのまま使ってくれて構わない。近頃は洋服も主流だからその服装に問題はないが足りないだろう?護衛をつけるから明日にでも買いに行って来なさい」

思っても見なかった返答になまえは目じりに涙を浮かべ目を擦った。
それを見て鶴見はよしよしとなまえの頭をなで「もうしばらく体を休めていなさい」と椅子から立ち上がると月島を連れて部屋を後にした。






「月島軍曹。この部屋には常に見張りを付ける。あの女を逃がすな」

「はっ、かしこまりました」

「傷を治す能力…?肩を撃ったはずなのに何事もなかったかのように完治していた。戦場には欠かせない力だ、間違っているか?月島軍曹」

「重症だった尾形上等兵も回復が早まりそうとのことでしたからね。軍にとって十分役に立つでしょう」

「そうだろうそうだろう、あぁ、早く戦争が起きないものか…彼女の能力に驚愕する奴らの顔を拝みたいものだ」

そういって鶴見は額から漏れ出した汁をハンカチでぬぐい取った。