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グランサイファーに落ちてから今日で三日目、つまり清掃員としてのお手伝い開始日だ。
前日にラカムとノアが描いてくれた艦内図を頼りにビィとある程度歩き回ったおかげで大体の地理は把握した。つもり。なんせ広すぎる。

今日は予めグランと決めておいた通りドラフ部屋の清掃をする。前半は男ドラフ部屋、後半は女ドラフ部屋、そして更にその後は鍛冶屋工房三姉妹+ソーンが使っている部屋に行く。

コルワが急ぎで仕立ててくれたという動きやすく汚れも落ちやすい清掃服(有り体に言えばオシャレなツナギ)に着替え、三角巾にゴム手袋、防水のエンジニアブーツを身に纏い、掃除用具たちを両手に抱えて男ドラフ部屋の前に立つ。と。


「あらぁ、ナマエちゃん!待ってたわよ」


さぁ入って入って!と内からドアを開けてくれたのはファスティバ。ハートを飛ばしながらいらっしゃぁいと出迎えてくれた。
正直みんながみんな良くしてくれるわけではないと理解しているが、こうやって和かに歓迎されると素直に嬉しい。


「あれ、今日はファスティバさんだけですか?」

「アナタ今日からこの仕事始めるんでしょう?デカイ男達に囲まれてたら萎縮しちゃうと思って、出払ってもらったわ」

「ええ……!お気遣いありがとうございます!」

「それと、堅苦しいのはナァシ!」

「ふふ、ありがとうファスティバ」


男ドラフ部屋、かなり覚悟してきたが肝心の部屋の主達はおらず疑問に思えば気を使わせてしまっていたようだ。まあ確かに2メートル超えの大男達がいると細かい掃除ができないかもしれないし、ファスティバには感謝しかない。

話しながら作業を始める。聞けばやはり急にやってきた私を不審がっている団員もいるそうな。ただ男ドラフ部屋の主達は、可愛いお嬢ちゃんがやってきた!酒が強いといいな!が総意だとか。嬉しいものである。

箒で集めたゴミ類は袋に纏めて壁の拭き掃除に入ると外から誰かが入ってくる。チラリと見遣ると少し驚いた様子のバロワが立っていた。


「あんたが例のお嬢さんか!邪魔して悪い」

「頑張り屋さんよねぇ」

「バロワさんお邪魔してます」

「なんだ、もっと楽に話していいんだぞ!」


バロワははっはっはと豪快に笑い、私の頭をくしゃりと撫でた後忘れ物を取りに来た、と煙草の葉が入った紙袋を取り出した。なるほどパイプ用か。


「そんじゃ続きも頑張れよ!」

「うん!」


楽に話していい、と言われたのでその通りにしたら笑顔がさらに深くなって、もう一度私の頭を雑に撫でてから部屋を出て行った。ファスティバといいバロワといい優しい人が多くて心が温かくなる。

だらしなく緩む頬をなんとなく引き締める気にならなくて、そのまま掃除を再開するとファスティバが愛おしそうな目でこちらを見ているのに気づく。首を傾げて言葉を催促すれば。


「アタシね、ナマエちゃんみたいな妹が欲しかったわ」

「私もファスティバみたいなお姉ちゃんが欲しかった」


お互い少しの間見つめあった後ふふっと同時に笑う。お姉ちゃんで合っているかな、なんて疑問も笑い声と一緒にどこかへ吹き飛んだ。

そのまま掃除を進めれば途中から隅の方で筋トレしていたファスティバが手伝ってくれるというのでお言葉に甘え二人で床のモップ掛けをして、男ドラフ部屋は終了。


「手伝わせちゃってごめん。それからありがとう!」

「可愛い可愛いアタシの妹が頑張っているんだもの、お安い御用よ!」


ファスティバが可愛らしくウインクしてくれたので、私もウインクをお返しして男ドラフ部屋を後にする。閉まる扉の向こうでファスティバが何か言っていたが少し時間が押していた為そのまま女ドラフ部屋へと急いだ。


「アタシの妹、タラシの才能あるかもね」




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ファスティバみたいなお姉ちゃんほしい
20190512 お肉