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エレナの演説が始まる前、緊迫した様子でドレスローザの街中を走り回る男がいた



「クソッ!どこだエレナッ…!!」


無論その男とはエースの事であった。
3日前に突然目の前から姿を消したエレナを寝る暇もなく探すが何の手がかりも掴めず、エースの顔に苛立ちの色が浮かんだ。



「ハァ……落ち着け、今あいつを助けられるのはおれだけだ。——おれが冷静になんねェと、」



そう、自分が冷静にならないと救えるものも救えない。何か些細な手がかりを見逃してしまうかもしれない。


そう思うものの、やはりエースは自分を責めずにはいられなかった。


なぜ、どうして目の前にいたにも関わらず誰かに連れ去られるまで気付かなかったのか。
"一生守る"だなんてでかい口を叩いておきながらこの有様だ。自分自身に嫌気がさして頭がどうにかなりそうだったその時。



「え〜〜この国では妖精に盗まれた物は帰ってくるとか来ないとか!」


「?!お前、あの時の…」


シンバルを持ったサルのオモチャ。
ドレスローザでエレナと食事をしていた時に話しかけて来たオモチャがなぜだかそこにいた。


「——つまり無くし物は出るとか出ないとか!」


「おいっ お前何か知らないか!?あの時おれと一緒にメシ食ってた女だ いくら探しても見つからねェんだよ!」


「え〜〜この国では突然何か大事な事を忘れたりするとかしないとか!」


「おれは真面目にッ…!クソ、こんな奴に構ってる場合じゃねェか」


問いかけても支離滅裂な事を話すサルのオモチャに苛立ちはしたものの、すぐに切り替えようとエースが通り過ぎようとした時。


「大切なら尚更そうなる前に探し出した方がいい。どうぞ旅の人、お気をつけに」


「おい、それはどういう——」


意味深にそう言ったオモチャに再びエースの足が止まる。


その意味を尋ねようとした時だった。
突然広間の中心にある映像電伝虫から、この3日間探し求めていた人物の姿が映し出された。


「エレナ!!!」


3日ぶりに見る彼女の姿にひとまず安堵した。姿を見る限り無事でいる事が確認できた。


しかし一体これはどういう状況なのか。一体誰と共にいるのか。なぜ姿を消したのか。


映像電伝虫越しに緊張した面持ちで演説をするエレナの言葉を聞く内にエースの眉間に深く皺が刻まれた。


ドンキホーテファミリーの一員になる?


どういう訳でそんな突拍子もない話になった。そもそも何故ドフラミンゴとエレナが共にいるのか、理解が出来なかった。


しかしゆっくりと現状を解析し、理解している暇もない。


「今のはエレナの意志じゃねェ」



きっと誰かに言わされている。その誰かとは、



「ドンキホーテ・ドフラミンゴ 七武海がエレナに何の用だ…?」


王下七武海でありドレスローザの現国王という異様な肩書を持つ男。


七武海の中でも特段悪い噂の絶えない男が何故エレナを攫うのか。


悪魔の実の能力がバレた?


いや、そんな筈はない。食べてまだ半月も経っていない。


そもそも彼女を能力者と知る物で世間にその事実を流出させるような人間はいないからだ。


ではなぜ。


「考えても仕方ねェ おいサル!おれをドフラミンゴの居場所まで案内しろ」


ごちゃごちゃ難しい事を考えるのはエレナを助け出してからだ。


エースはようやく自分のすべき事を見つけると1秒でも早くエレナを取り戻す為、早速動き出すのであった。

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