01

春、私は高校二年生になった。中学から毎日通っていた氷帝から転校するのは悲しくて悲しくて、特に仲の良かったテニス部のみんなと別れる時は涙で顔がグチャグチャになって、お兄ちゃんが涙を拭いてくれたのは記憶に新しい。

それはいい、それはいいんだけど…一体ここはどこだろう??お兄ちゃんからもらった高校までの地図(無駄に説明の多い)は手元にあるのだけれど残念なことに私は地図があっても読めないということに今更になって気がついた。


でもなんとかなるかも!なんて思ってたあの時に戻りたい。

「君、その制服立海の子ー?ーーってめっちゃ可愛いいじゃん!!学校なんてサボっておれらと遊ばね?」

「うわマジじゃん、モデルみてー!よーしお兄サンがいいとこ連れてってやるからみんなで楽しいことしよーぜ!」

「あ、いや私は学校があるので…」

「固いこと言わねーでさ!」

ガシッと手首を掴まれてすごい勢いで人気のない方に向かって行く男達に本当にやばいと感じて大声を出そうと口を開いた途端後ろからついて来ていた男に手で口を塞がれた。

「楽しいことしたらすーぐ終わるから我慢してね〜」

「ははっお前も悪い奴だなぁ」

「ん、んーーっんん!(やだ本当に助けてっーーーーーーお兄ちゃん!!)」

ガッシャァン!!!!

「な、なんだ!」

「何の音だ!?」

もしかして、お兄ちゃん?と固く瞑っていた目をゆっくり開けるとそこには同じ高校らしき男子生徒が立っていた。テニスボールを投げたのだろうか、近くにコロコロとテニスボールが地面に転がっている。

「な、なんだテメェ!喧嘩売ってんのか!!」

「喧嘩?ふふっ安心しなよ、生憎お前達みたいなのに構ってるほど俺は暇じゃないんだ」

「ああ!?その子綺麗な顔がボコボコになる前にーーって待てコラ!!おい、逃げたぞ!」

「え、え!?うわっ!」

突然の浮遊感に戸惑っているとどうやら私は初めて会った同じ学校の人にお姫様抱っこというものをされているのだということに気づく。

びっくりして彼の腕の中でフラフラと不安定に揺れる私の身体を落ちないように更にグッと抱き寄せて、彼は小さな声で呟いた。


「ーーーーやっと会えた」

「え?なんてーー」

「ごめんね、ゆっくり話してる暇はないみたいだからちゃんと俺に捕まってて?」

「は、はい!!」

なんて言ったのか聞こうとしたが、私を抱えている彼は後ろから追いかけてくる男達に目を向けると恐ろしく整った顔にすまなそうな表情を浮かべて自分に捕まるように言った。


それに慌てて頷き、私は落ちないように彼の首に手を回してしがみついた。太陽の光でキラキラと輝く蒼色の髪から微かに香るシャンプーの匂いが私の不安を拭い取る。後にこの出来事が学校中に広まって、始業式の道中で王子様が現れるというジンクスが誕生するなんて、この時の私は思いもしなかった。

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