些細なきっかけ
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いつも見ていたドラマの最終回。録画予約を忘れていたと気付いたのは、授業中だった。
(―急げ、急げっ)
授業を終え、高校を飛び出して走り続ける。
あの角をまがれば家は目の前という所で、私は何かを蹴るような鈍い音を聴いた。
そして続けて怒鳴り声
「おらぁ、金出せよ!」
「なんとか言いやがれ」
最悪だ。
何故ここで、ケンカに遭遇するのだろう。
角からこっそり覗いてみる。しかし、それはケンカではなく―
(ありゃリンチだぞ)
2vs1でボロボロにされている少年だった。
それが、私と彼―古里炎真との出会いだった。
あの後、家の前でわめいていた不良たちを、じいちゃん直伝のケンカ術でのした私は、傷だらけの炎真を部屋にいれた。
手当てをして、破れた服を縫っていたら結局最終回を見逃した。
ショックで灰になった私と申し訳なさそうな炎真をみて、帰って来た母がギョッとしたのは仕方ないことだろう。
「……ありがとう」
だけど炎真の小さな一言は、すごくあったかく感じられた。
それから私達は話すようになった。
高校生の私と中学生の炎真はあまり接点はないけど、街では会うし、時々買い物を手伝ってくれることもあった。
炎真はいい子で、私の大切な友達だった。
だけど
「……ごめん」
ポツリと呟かれた謝罪は炎真のものだった。
ある日の買い物帰り。私が倒した不良が殴りかかってきた。
一人だった私は背後をとられて、思いっきり殴られた。
偶然炎真が友達と一緒に通りかかったので助かったが、それがなければどうなったか解らない。
鈴木さん(炎真の友達)は本当に強かった。
……こんな事じいちゃんに知られたら、修行が足りん!とか言われそう。
じいちゃん、私ただの高校生だからね。
そんなことを考えていたら炎真が小さく謝ったのだ。
「炎真は悪くないよ。油断してた私が悪い。」
「でも僕の事放っておけば名字さんはこんな目に会わなかった」
「放っとけないよ、友達だもの。私が助けたかったから助けただけ。炎真が気にすることない…」
「助けて欲しくない」
炎真の口から初めて聞く強い拒否に何も言えなくなった。
「守られたい訳じゃない」
ポツリと呟かれたそれは、強い意志が込められていた。
「本当は守れるようになりたい」
だって名字さんが大切だから、と続けられる。
「強くなるよ。僕があなたを守れるようになる」
そう言ってこちらを見る目は真剣で、彼らしくなくはっきりとした物言いで告げる炎真。
だけどそれも炎真なんだと思うと胸があったかくなった。
「ありがとう」
夕日で赤い帰り道を私達は手を繋いで帰った。彼の手を握りしめると、握り返してくれた。
私達の間で何かが少しだけ変わった、気がした。
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