第1話


 きっかけは高校2年の夏休みだった。

第一話

 その日はやけに頭が痛くて、だから部活を休んで、夏の課題も放置して朝から布団で寝ていたんだ。
 昼頃になって少し楽になってくると、それがすごく暇に思えてしまって。だからちょっとくらいいいかなって布団脇にあったマンガに手を伸ばして。
 そうしたら案の定また頭が痛くなってきたから、私はマンガを抱えるように丸くなって……。うん、そのまま寝たはずなんだ。



──それなのに

「おめでとうございます名字さん。元気な女の子ですよ!」

──気づくと私は

「はじめまして。名前」
「私たちの、大切な赤ちゃん」

 赤ん坊になっていた。
 
***

 信じられない体験から早3年。
 私は平凡な3歳児ライフを送っている。
 まあ、前世の記憶があることは平凡とは言えないけれどね。

 生まれ変わった私は、不思議なことに名前も顔も変わっていなかった。
 変わってしまったのは家族構成と住所。両親の顔も名前も違う。二つ下の弟は産まれていない。
 そして関東に住んでいた私は、現在静岡県民である。

 そりゃね、最初はすごく抵抗があったよ。
 全部受け入れられなくて、情けないけどずっと泣いていた。おそらく両親は、ただの夜泣きとしか思っていないが…。

 でもそれも、最初の内だけだ。
 分からないことをずっと悩むのは、けっこう疲れる。だって答えがでないんだもん。
 とりあえず私は、新しい両親の元で第2の人生を歩めばいいのだろう。そうやって割り切ったら、すごく楽になれた。

「名前、散歩に行くよ」

 母さんの声に、顔を上げながら返事をひとつ。今日は初めて近くの公園に行くんだってさ。この身長だと、ジャングルジムがすごく高く思えるんだろうな。ちょっと面白いかも。
 なんてことを考えながら歩く。おや、先客がいるみたい。
 私より少し大きい男の子とその父親だろうか。サッカーボールを持っている。
 隣にいた母さんが「まぁ!」と声をあげた。

「肇くんよねぇ。久しぶりだわ」

 その声に気付いた男性が、大きく手を振った。
 ……知り合い、ってことだよね。おー、なんか盛り上がってる。
 なるほど、幼なじみがママ友、いやパパ友か?そうだって分かって、話も弾むんだろうね。

 うん。でもね。

 私と息子くん、ほっといてますけど…。
 思わずまじまじとその子を見る。
 あれ?この子どこかで見たことがある…? 

「ねぇ、君の名前は?」

 視線が合ったタイミングで、息子くんは私に声をかけてくる。遊び相手がいなくなったら他の人と関わるしかないもんね。ごめんな、息子くん。

「名字名前です。3歳です。」

 ちょっぴりの申し訳なさも加わって、普段よりも年下感いっぱいにお兄ちゃんは?と聞き返す。ニッと笑った彼の興味は、すっかり新顔である私の方へと向いたみたいだ。よし、しばらくは暇潰し相手になるよ!

「斉木誠。5歳だよ。」

 よろしく、と笑顔の誠くん。挨拶上手だね。偉いね。

 でもね、ちょっとごめんね。

聞き覚えのありすぎる名前に、固まるしかない私。
 思い出した。彼をどこで見たのか。私は前の世界でも、この顔を見ていた
 ただ、私が見ていたのはもっと大きくなってからの顔で、しかも平面上で
 私が最後に読んでいたマンガ。その中に彼はいたのだ。


「名前ちゃん?」

 どうしたの?と心配そうに聞いてくる誠くん。だけど、それどころじゃない。
私は気付いてしまった。ただ子ども返りしただけではないんだと。

名字名前。3歳(+17歳)


大好きなマンガ「シュート!」の世界にいるようです。

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