過去拍手【沖田】



容姿は10人並み。
学力は悪くもなく良くもなく平均。
悪くは無いがとりたてて良いところもないわたし。
そんなわたしを。

「どうして先輩は好きなんでしょうか?」

そう言って、わたしは後ろから抱きつく彼氏を見上げた。
今、わたしには付き合っている彼氏がいる。
沖田総司先輩。
容姿端麗。学業優秀。スポーツ万能。と3拍子そろった2年屈指のイケメンである。もう女子からモッテモテである。
勢いに押され半ば押し切られるような形で付き合ってしまったが、よりどりみどりな先輩が何故わたしを選んだのか、未だにわたしはよく分からなかった。
だから聞いてみたのだが。

「どうしてって。好きだから」

当然でしょという顔でさらりとそう返された。
いや、それは何度も言われて分かっているんですが。

「具体的にわたしのどこが好きなんでしょうか?」

そう聞くと、沖田先輩は「んー」と考えるそぶりをしながら何故かわたしの頬をぷにぷにとつつき始めた。
地味に痛い。
抗議をこめた目で上を見上げると、またまた何故か満足そうな笑みで見返された。

「その迷惑そうな顔が好き、かな」
「…迷惑そうな顔、ですか」

理解不能だ。
というか、いつもみたいにからかわれてるんじゃないだろうか。わたしは真面目に聞いているつもりなんだけどな。

「もういいです」

真面目にとりあってくれないのが面白くなくて、わたしは先輩の手をそっと自分の手でどけた。すると、その手を逆に掴まれた。振り返ると、いたずらっ子のような目とぶつかる。先輩の綺麗な唇が、笑みの形をとった。

「それと、小さい手が好き」

ちゅっと音を立てて、手の甲に唇を落とされる。突然のことに、わたしは固まってしまった。恋愛経験なんて今まで全然無かったし、付き合いたてということもあってまだそういう行為に慣れていないのだ。
実を言うと、抱きつかれるだけでもせいいっぱいだったりする。
なのに先輩の行為はだんだんエスカレートしていく。

「ちょっ、先輩」
「長い髪が好き」

前髪に口付けられる。

「小さい耳が好き」
「やっ」

耳に口付けられる。

「柔らかい頬が好き」
「先輩!」頬に口付けられる。
そして、

「薄桃色のくちびるが―」
「分かりました!分かりましたから!!」

唇に口付けられそうになって、わたしは必死に彼の口を手で塞いだ。
「何?」先輩はわたしの手の中に不満そうな声をもらした。手に吹きかかる吐息が、くすぐったい。思わず手を離すと、先輩のほうを向かされて両手ごと抱きこまれた。

「…分かりましたから、離してください」
「えー、どうしようかな」

身をよじると、ますます強く抱きしめられた。
密着する身体に、羞恥心から顔が真っ赤になる。

「せ、先輩」
「君は僕に君のどこが好きなのか聞くけど、じゃあ君は僕のどこが好きなの?」

「ねぇ?」意地悪な声が耳元でそう囁く。
そんなの。

「全部です」

先輩だから好き。
笑った顔も、意地悪な顔も。先輩の全部が好き。
いじけた顔でそう言うと、先輩は満足そうな顔で笑んだ。

「僕もそうだよ」

だから。

「理由なんて”好き”で十分でしょ?」

…かなわないと思った。
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