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屋敷内に他の隊士がいないことを確認して、私は外に出た。
空気が少し生温くて、春が訪れようとしていた。
アオイ達が洗濯物を干しているのを見ながら縁側に座る。
私に気付いたなほすみきよちゃんたちが走ってくる。
カナヲもチョコチョコとその後ろをついてくる。

「詩澄さん!おはようございます」
「わあ〜かわいいですね!」
「眠っちゃってますね!」
「手がちっちゃい!かわいいです!」
「………」

腕の中で眠るこの小さい生物は、この世に生をうけて半年も経っていない。
半年経つまでは私は養育することになってる。
そしてその後は子供に恵まれなかった夫婦の元で育てられることが決まっていた。
それはもう1年前、お館様がわざわざ蝶屋敷に赴いてくれたのだ。
色んな話をした。
前世の話。
私の目的。
なぜ子を成そうと思ったのか。
そしてどうしたいのか。
お館様は私の話を聞いて、そして提案してくれたのだ。
だからあと半月、私はこの生物を生かすことが任務なのだ。
君の道が見付かったみたいで良かったと、そう言われた。

「もう名前は決めたんですか?」
「うん。でも秘密」

長いまつげが風で揺れていた。
白い肌は私譲りだな。

「詩澄さんもまたいなくなっちゃうんですね」
「うん、でもまた顔見せるから」
「赤ちゃんもいなくなったら寂しくなりますね」
「うん、でも私の血を受け継いでるんだからそう簡単にくたばったりしないと思うよ」
「確かに、詩澄さんってどんな大怪我してもちゃんと回復してますもんね」
「褒められると照れる」
「褒めてませんよ」
「アオイってしのぶに似てきたよね……」

腕の中の生き物が目を開ける。
私達の声で起きたようだ。
少し紫がかったような黒い瞳が私を見る。
光が当たると少し黄緑に光る。
私の元々の瞳の色は黄緑色だった。
まさかこんな形で見るとは思っていなかった。
瞳の黒味は私譲りではないが。

「詩澄さん!お体が冷えますから中に入っていてください!」
「厳しい」
「そうですよ!まだ寒いんですから」
「じゃあお茶入れて待ってるね」
「はい!ありがとうございます」

この半年、そして一年。
長いようで短かった。
生物を殺さない生活というのは初めてだった。
人間も鬼も殺さない生活は何もかもが新しく感じた。
自分の体が新たな生物を生み出すというのは何ともおかしく感じた。

産まれたガキを見て、何とも不思議な気持ちになった。
私と血の繋がった、そして将来出夢と理澄に会うであろう人間。
私の思いはこの子に託すことになるのだ。

まともに立つことも出来ない人間のなりそこない。
この子が成長してまともに言葉を発することが出来るようになるまで、私は生きているだろうか。
養育先のご夫婦はそれはそれは出来た人達だった。
この人たちならばこの子はしっかり生きられそうだ。

「頼んだよ」

そう声を掛けると、何も理解していないような笑顔を向けられた。

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