上司に言われた通り今日はちゃんと出勤しようと思った。
自分のデスクを見るのは久しぶりのことだ。
部署の扉をくぐると回りから明らかな敵意を感じた。
そりゃあ今まで見たこともない人間が来たらそういう視線を投げざるを得ない。
でもそんな視線などどうとでもしておけばいい。

今まで上司というものを避けてきた。
自分には学がないから細かい作業は行うべきじゃあないと思っていた。
だがあの上司はどうやら違う考えらしい。

「…驚いた。ちゃんと出勤してくるとはな」
「上司の命令には従うように言われている」

物置と化していた自分のデスクを片付けていると上司がやってきた。
彼は私のようにすぐ拳銃をぶち込むタイプの人間ではない。
論理的に考え、確実性を持って判断する人間だった。

「早速今僕が追っている事件の捜査に加わってもらう」
「わかった」
「これが事件の概要だ。頭に叩き込め」
「…おェ」

手渡された資料は分厚く重い。
私が始末した人間はどうやらテロリストの末端中の末端らしい。
この資料にはその大本となるテロリストの情報が細かに記されていた。
末端の人間でないとなるとただ殺すだけではダメなのだろう。
零は私の隣のデスクに腰を下ろして調べものを始めた。

日本でも名前をたまに名を聞くジャーナリストがテロリストに関与している可能性があるらしい。
ジェロニモ = フスコという男。
ジャーナリストとなると厄介だ。
色んな所に繋がりがあるだろう。
彼はイタリア出身らしいからイタリアンマフィアと関係があるかもしれない。
イタリアンマフィアについては私の伝手で情報を得ることが出来るがバレると厄介だからやめておこう。

「今はこの男を追っている」

零がそう言って示したのはフスコと懇意にしている青島 一樹というジャーナリスト。
彼等は特に戦場やスラム街の取材を行っている。
今まで彼等の赴いた場所に私のよく知る場所がなくてほっとしたのは秘密だ。

「青島とフスコがテロリズムを働く証拠を抑えるために青島を徹底的に詰めるんだな」
「ああ。思っていたよりは論理的思考が働くようだな」
「まあそれなりに」

確かに零から見れば私はただの殺人者でしかないだろう。
この部署にいる人間は皆国に命を投げ出す覚悟で配属されているらしい。
確かに私も自分の命など今更惜しいと思ったことは無いが、彼等とは覚悟の大本が違うのだ。
特に零はこの部署でもかなり信頼が厚いらしい。
彼が来た瞬間に回りの奴等の面構えが変わった。

「青島の書籍について調べろ。少しでもいい、何かあったら報告しろ」
「わかった」
「いつも本を読んでたんだ。ここで発揮するためだったんだろ?」
「そうだったのかもな」

青島の書籍というのはこの机に積み上げられた本のことか。
いくら私の趣味が読書だからと言って速読が得意な訳ではない。
いつになったら終わるのだろうか。
でもこういった地道な作業があったからこそ私は安心して殺しに集中できた。
そう考えると悪くないと思うのだ。

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