鯉登の送別会は多くの死人を出して無事終了となった。
そしてその三日後、鯉登との最後の英会話教室が始まった。
鯉登が一升瓶を持ってきたのを見て、こいつ今日は英語を学ぶつもりがないなと思った。
「今日は私の送別会に変更だ」
「これが例のうまい酒…」
「薩摩の地酒を送ってもらったんだ。勅使河原と飲もうと思ってな」
「ありがとう!飲もう飲もう!」
一升瓶を受け取って、椅子に腰かける。
薩摩といったら芋焼酎か。
焼酎好きなんだよね。
いやアルコール全般好きなんだけど。
鯉登も向かいに腰かけたので、小さい湯飲みに焼酎を注いでいく。
何も持って来ていないのを見るとストレートで行く感じか。
乾杯をして飲み始めた。
いい香り…!
苦味の中にしっかり甘味もあって、後味もすっきりしていてすごく美味しい。
「味わってるな」
「うん、すごく美味しい!これならもう一本飲めそう」
「それは飲みすぎだ。この前の酒豪っぷりには驚いたぞ」
「飲み会あるところに勅使河原あり、とか言われてたしね〜」
鯉登が令和の飲み会について教えて欲しいと言ってきたのでレクチャーしておいた。
真剣に聞いていた。
真面目だな…それとも引いてるのか…?
しばらく飲みながら話しているともうすぐ一升瓶が空になりそうになっていた。
「勅使河原、未来にはお前が好いた男はいたのか」
「あの時は彼氏いなくてフリーだったよ。元カレは何人かいたけど」
「そうか…」
「鯉登は好きな人できた?軍人って忙しいから出会いとかなさそうだよね。アプリとかあればいいのに」
「あぷり?」
「恋人探してる人同士の紹介所的な?」
「未来はすごいな」
私的には今の家柄とかお見合いとか親が決めるみたいなほうが大変だなとか思ったりする。
今まで相手の家柄なんて気にしたこともなかった。
お見合いとか絶対嫌だったし、ギャル的には自分の人生は自分で決めたい。
「私は勅使河原に嫁に来てほしいと思っている」
「………マジで?」
「マジだ。本気と書いてマジ、だったか?」
「何で何で、理由が知りたい」
鯉登が急に真剣な顔をするからなんだと思ったら突然告白された。
顔が赤いのは酔っているからではなく、素面で照れているからか。
いやいやいや、ちょっと待って思考の整理が追い付かない。
「勅使河原は自分の意見をしっかり持っていて、それを大切にしているところを私も見習いたいと思っている。鶴見中尉殿と対峙しても臆さないところも尊敬している。未来から来て心細いこともあるだろうが、努めて明るく皆に接しているところはいじらしさもある。それに第一、私は勅使河原といると楽しいんだ。この前街に出たときに確信した、私は勅使河原が好きだ」
「え、えぇ〜…真っ正面から言われると何て反応すればいいか分かんないんだけど……」
思わず頭を抱える。
どういう風の吹き回しだ…
いいとこのお坊ちゃんで、お父さんが海軍の偉い人である鯉登がこんな馬鹿げたことを言うなんて信じられない。
今後いつ消えるかもわからない私を嫁になど、本当にアホなのか?
「私は明日から旭川で任務に就く。それに今後も金塊争奪のため忙しくなる。だから全てが終わったら返事が欲しい」
「おお…なるほど、わかった……それで、とりあえず普通に接しちゃっていい感じ?」
「ああ、いつも通りで頼む」
「一個確認なんだけど、これってつるみちゅの作戦?」
「鶴見中尉殿は関係ない。私は勅使河原が好きだから告白しただけだ。これはギャル、か?」
「…うん、ギャルに近付いたね」
思わず笑うと鯉登も微笑んでいた。
窓から見える満月が高いところにあった。
「これを受け取ってくれ」
「なにこれ……櫛だ!」
小さい包みを開けると綺麗な櫛が出てきた。
螺鈿細工の施された美しい櫛だ。
ブラシも没収されているので髪が滅茶苦茶なので助かる。
「めっちゃ助かる〜!すぐ食材買っちゃうから櫛まで気が回らなくてさ、やっぱ手櫛じゃダメだよね」
「この前小間物屋で見ていただろう」
「バレてたか」
「特別に作らせた物だ。使ってくれ」
「特注品?!やば……」
金の使い方が金持ちのそれなんだよ。
告白してオッケー貰ってない相手に渡す感じの物じゃないんだよ。
これはもう妻とかに渡す物でしょ…
スケールが違いすぎてうける。
「今日はそろそろお暇しよう。明日も早いからな」
「そうだね、明日お見送り行くね」
「ああ。ではおやすみ」
「おやすみ〜」
鯉登が空になった一升瓶と湯飲みを抱えて出ていった。
はあ〜あ。
何だか一気に疲れた。
どうしたものか。
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