23

「仲直りしたんだねー」
「おかげさまで」

春休みの練習はもう今日で最後になろうとしていた。
相変わらず厳しい練習は続いていた。
黒子君は相変わらず吐いている。

「っていうかさぁ、何で赤ちんだけ名前で呼んでんの?」
「頼まれたからね。他の一年生のことも名前で呼んだ方がいいのかな」
「まあ仲いい感じは出るよね」
「じゃあそうしようかな」

そろそろ男の人を名前で呼ぶことにも慣れて行かないとだ…
当たり前に彼等の名前を呼べるような関係になってきたんだな、としみじみ思った。

「敦」
「ん」
「可愛いからお菓子をあげようかな…」
「澪梨ちんホント俺に甘いね」

純粋な目で見られるとお菓子をあげたくなるのは仕方ないことなのだ。
ポッキーを一本あげると敦は満足そうな顔をしてコートに戻って行った。
私達一年生が自由に楽しくバスケを出来ているのはきっと虹村先輩のおかげなんだろう。
本当に彼は凄いと思うのだ。
それからいつもみたいに雑務をこなした。

ポケットにある征十郎がくれたハンドクリームを塗ると少しだけ気分が高まる。
薄いローズの香りは控えめだけれど存在感があって私好みだ。
寒くて室内で温まりたくもなるけれど、これのおかげでもう少し頑張ろうと思えるのだ。

体育館に戻るとミニゲームが始まっていた。
征十郎の腕にはハンドクリームのお返しで私があげたリストバンドがあった。
使ってくれているみたいで嬉しくなった。
もうすぐ私達は二年生になる。
そうしたら征十郎が背負うものも増えるだろう。
征十郎が苦しくなった時、最後に頼れる存在が私であればいいと思うのだ。



自然と一年生が一番最後に帰ることになった。
みんなでダラダラ歩きながら夜空を見上げた。

「あのさ、」

今日でここに来て一年になる。
征十郎と出会って、それからみんなと出会った。
少し悩んだこともある。
でも何だかんだ楽しかった。
この一年間、ほとんどの思い出に彼等が関わっていた。

「一年間ありがと」

結局私は彼等に対して感謝していた。
合宿も、大会も、日々の練習も。
私は彼等がいたから楽しめた。

「これからもよろしくお願いします」

軽く頭を下げると笑い声が聞こえた。
ムカつくこの声は灰崎だ。

「何かしこまってんだよ。辞めるのかと思ったじゃねーか」
「僕も思いました…」
「ビックリさせないでよ〜!!」

頭を上げるとみんな驚いた顔をしていてこっちが驚いた。
さつきは泣きそうになってるし。

「こちらこそありがとう。これからもよろしく」

征十郎がそう言って笑うから、私も笑った。
ずっとこんな時が続けばいいなと思っていた。
でも時の流れがそんなに優しくないことは知っていた。



prev
ALICE+