新学期になった。
クラス替えがあるのだが、クラスの掲示の前に人だかりが出来ていて見えない。
困ったな…
周囲を見渡すと真太郎がいたから手招きをすると寄って来た。

「真太郎おはよう」
「おはよう。クラス表が見えなくて俺を呼んだのだな」
「うん。ちょっと困ってて」
「…あったのだよ。俺と同じクラスだな」
「そっか。よろしくね」
「ああ、よろしく」

知ってる人がクラスにいるのは心強い。
新しい環境でも私はうまくやっていけるだろうか。

「赤司は違うクラスだったのだよ」
「そうなんだ」
「…興味ないのか?」
「うーん、まあ同じクラスでも別のクラスでも関係ないと思ってるから」

クラスが別れる程度で切れる縁ならそこまでだったってだけだ。
真太郎はふっと笑った。
自分の席に着くと、目の前には見慣れた黄色がいた。

「黄瀬だ」
「澪梨っち〜!また一緒だったっスね!」
「うん。久しぶりに会ったけど元気そうでよかった」
「だって澪梨っち部活で忙しそうだったから声かけづらくて…」
「そうだったんだ。まあいつでも勉強は教えるよ」
「ありがたいっス!!」

ウインクされた…
黄瀬は本当に犬だ。
しっぽが見える。
笑顔が眩しい…


それから去年みたいに始業式は終わって、日々の生活が始まった。
部活はまだ一年生はいない状態。
人数が少なくなって少し寂しく感じる。
変わったことは、昼ご飯を一緒に食べようと征十郎が誘って来るのが増えたことだ。
征十郎は私以外に友達がいるのか心配になった。
まあ真太郎とかいるし、大輝もいるから大丈夫なのか…
大輝は友達というよりかは親目線で付き合ってるのかな…

食堂で食べることが多いのだが、征十郎が人気者であることをひしひしと感じる。
一年生達にとって征十郎は憧れの的なのだ。

生徒会長。
顔はカッコイイ。
バスケは上手い。
性格は優しい。
物腰柔らか。
成績は学年トップ。

男性としての全てが揃ってると言っても過言ではない。
相当モテるだろうな…

「難しい顔をしてどうしたんだ?」
「え、そんな顔してたかな」
「最近澪梨の表情の変化が分かるようになってきたんだ」
「うわ普通に恥ずかしいね」

キュンと来るからやめて欲しい…
心臓に悪い。

「征十郎は女の子からモテるだろうなと思ってね」
「そんなことないさ」
「謙遜だね。…今学期は既に4人に告白されたと見た」
「…凄いな。正解だ」

まじかよ。
凄いな…
正直征十郎の隣に私がいていいのかと思ったこともあった。
でもまあ、私達は友達だし征十郎が望んでいるのならそれでいいかなと結論付けた。

「あ、あの!今って少しだけいいですか…?」

新入生の女の子が私達のテーブルに来て声を掛けた。
フレッシュな感じで可愛い子だ。
あどけなさが残る顔だ。
学食にいる皆が私達をチラチラと見ていた。
多分彼女は告白しに来たのだろう。
私は完全に邪魔ものだな…去ろう。

「征十郎に用事ですよね。席を外しますね」
「ありがとうございます!!」

テーブルの上に無造作に置いたあった弁当箱を持つと、その手を征十郎に握られた。
私は中腰のまま固まった。
どうしたのだろうか。

「悪いが、今は澪梨といたい。放課後に時間を作ろう」

学食が静かになったのを感じた。
征十郎の声だけがよく聞こえた。

「あ、はい…すいません…」
「いや、私が席外すから!」
「俺の我儘を聞いて欲しい。君は放課後俺の教室まで来てくれ。それでいいかい?」
「はい…す、すいませんでした…」

女の子はそう言って、下を向いて走り去った。
女の子の姿が見えなくなるまでその方向を見て、それから征十郎を見た。
征十郎はいつもと変わらない表情をしていた。

「状況が理解できないといった表情かな」
「…正解だよ」
「取りあえず座ったらどうだ」
「そうする」

座ってみたところで、状況は飲み込めない。
どうして征十郎はこんな手段に出たんだ。
これじゃあ誰かが勘違いしてもおかしくないやり方だ。

「澪梨は俺の我儘を許すと思ってね」
「まあ大概許すだろうね」
「だからああ言ったんだ」
「何かやりたいことがあったの?」
「実は生徒会の仕事が残っている」
「やっぱり」

我儘を聞いて欲しいと言えば私がそれに従うことを征十郎は既に知っていた。
征十郎は無意味なことをしないタイプだ。
仕事が残っているのかと思ったがビンゴだった。

「本心でもあるけどね」
「それはありがとう」

知らない新入生と気の知れた友人なら、そりゃあ友人を選ぶだろう。
私は告白何かされたことないからよくわからないけれど…
それから適当にまた話して、征十郎とは別の教室に帰った。
四月の生暖かい空気が心地いい。


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