黄瀬がバスケ部に入部することになった。
憧れの人が出来た黄瀬を見て微笑ましく感じた。
そして彼はすぐに一軍に上がってきた。
想定内だったが嬉しく感じた。

「一軍上がったしこれから一緒に帰れるっスね!!」
「黄瀬は練習が終わっても元気だね」
「鍵を返してくるからここで大人しく待ってるんだよ」
「はいッす!」

飼い犬に待てを言った時の気分だ。
あれじゃあただの犬なのだよ…という真太郎の呟きにちょっと笑った。

鍵を返しに行くと、虹村先輩の声が聞こえた。
どうやらコーチと何か話し合っているようだ。
盗み聞きは趣味じゃないが、この二人の間に入っていく勇気はない。

「主将は赤司に」

今凄い聞き捨てならない事を聞いた。
主将を征十郎に…?
どうやら家庭の事情で虹村先輩は主将を征十郎に譲るつもりらしい。
家庭の事情なら仕方ない。
征十郎なら問題なく主将を務めあげるだろう。
だからこそ少し心配だ。
完璧に出来るからこそ征十郎は脆い。

それにしても、虹村先輩が主将を辞めるなんて寂しい。
彼がいたから、守ってくれたからこそ今の二年生は好き勝手にやれていた。
だからこそ保護者のいなくなった彼等を少し不安にも思える。

「…菅田、か」
「…すいません。盗み聞きをするつもりはなかったんです」
「いいよ、いずれは知ることだろ」

部屋を出てきた虹村先輩に見つかった。
先輩は少し気まずそうに笑った。
鍵を戻して、来た道を先輩と歩いた。

「何時頃になるんですか」
「五月ぐらいだろうな」
「そうですか」

あと一ヵ月ぐらいしかないのか…
私達が先輩に甘えられるのも残りわずかだ。
五月になって、先輩が主将を辞めたら私達が主になって部活を回していかなくてはいけないんだ。

「まあこのことは俺から話すから、まだ黙っといてくれ」
「はい。そのつもりです」
「赤司のこと、よろしくな」
「はい。任せられました」
「じゃあ俺は先行くわ!」

先輩はそう言って私の頭を撫でると軽く走って行った。
その背中を見ていると不意に涙が出そうになる。

「先輩!!」

私の声に振り向いた先輩が驚いた顔をしていた。
私だって驚いた。
こんなに大きな声を出せる自分に。

「これを言うのはまだ早いですけれど、ありがとうございました!!!」

大きく頭を下げてから頭を上げると、先輩が笑っているのが見えた。

「早すぎだ!じゃあな!」

手を振って小さくなっていく先輩の背中を凄い遠くに感じた。
感謝と不安が胸を渦巻いてドクドクと鳴っていた。



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