次の日、いつも通り早朝の業務に追われながら、開店時間を迎えた。
昨日の私をずーっと見つめていたあの男。
私は接客中も男のことが気になって仕方がなかった。
見覚えはないが、これだけ既視感があるのだ。
きっと過去の私が知っている相手なのだろう。
思い出せないなら次に会ったとき、聞いてみればいい。

そうサナは軽く思っていた。


サナという名前は、本名ではない。
名前すら覚えていない私に、おじいさんとおばあさんがつけてくれた名前だ。
おじいさんたちの亡くなった娘さんの名前らしい。






しかし今日はやけに人が少ない。
おじいさんもおばあさんも何故かと首を傾げている。


思い切って、二人に店を私1人に任せてくれませんか?と訪ねてみた。
もちろん日頃の感謝の意を込めて、二人にゆっくり過ごして欲しいと思った発言だったが、おじいさんにやんわりと断られてしまった。

わしは、この店が趣味の様なもんじゃからのぉ。
そう言いつつも、表情は心配気だった。
きっと、私1人に任せるのがまだ心配なのだろう。

そんなおじいさんの気持ちも私の気持ちも組みとってくれたのか、おばあさんは、

たまにはいいかもしれませんや、じいさんや。
じゃあ二階にいるから、用があったら呼ぶんだよ。

と、おじいさんを、二階の自宅に引っ張っていった。



ガランとした店内にぽつんと残された私は、
お客が来るまで掃除を始めることにした。






床をモップ掛けをしている最中、ふと気がつくと、店内に人が入っていたことに気づいた。


「ッ…いらっしゃいませ…!」

一体いつの間に…
思わず叫びそうになったが、何とか堪え笑顔で挨拶をする。



お客様は昨日街灯に立っていた、あの男だった。

昨日と同じく、無表情にこちらを見つめる視線に耐えて席へと誘導する。
何も言わずおとなしく、彼は席へと座った。
私は一旦厨房に戻るとサービスの水を用意して、彼の元へと戻った。
そしていつも通りの接客をした。



「ご注文はお決まりでしょうか?」

「…」



彼は私の言葉に、返事を返すこともなく、ただひたすら私だけを見つめてきた。
本来彼の様な綺麗な男性にこんな風に見つめられたら、頬を赤らめるぐらいの反応をするのだろう。
何故か私は彼に見つめられると、ゾクゾクとした嫌悪感で体中に鳥肌がたった。


「…ご注文がお決まりでしたら、お呼び下さい。」


どうしてもこの場から逃げたくて、私はなんとかそれだけを口にすると、足早にその場を離れようとする。


そんな私を防ぐかのように、彼は異様に冷たい手で手首を掴み、引き止めた。



「あの、お客様…?」

「…」



彼は何も言わない。
振り払うことも出来ない為、彼の視線から逃れることができない。
重い沈黙が店内を包む。





「サナちゃん…?お客様かい?」



沈黙を破ったのは、おばあさんの声だった。
不思議そうに私と彼を見つめ、すぐに彼に掴まれた手首に気づくと、その異様な光景に勘付いたのか、助け船を出してくれた。


「サナちゃん、ちょっといいかい?
お客様、申し訳ありませんが、サナちゃんをお借りしますね。」



おばあさんの言葉に彼はあっさりと手首を離した。
一礼し、慌てておばあさんのところに行くと、後は任せてと言われたので厨房に隠れるようにしゃがみ込んだ。

ドッと全身から汗が噴き出す。
いいようもない恐怖がサナを包み込む。


私の様子を見に降りてきたおじいさんに、しゃがみ込んで震える姿を見られ、結局その日はそれ以上働くことができなかった。

















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