あの日から、彼は毎日店を訪れてくる。

おばあさんは、私に気を遣い彼の接客の時は代わってくれようとするが、そのままではいけないので私は自ら彼の注文を取りにいくことにしていた。
また何かされるんじゃないかと警戒していたが、特に何もなくメニュー表を指差し注文するだけだ。
相変わらず不気味だが、最初みたいにずっと私を見つめることもなく、基本的に窓の外を眺めている。
彼は決まって珈琲一杯注文し、一時間程店に滞在すると帰っていく。


そんな日が続くと、最初の頃みたいな恐怖は段々と感じなくなってきた。
むしろガヤガヤとしたやかましいお客より、大人しい彼の方が好感度は高くなっていった。


ある日私は思い切って、彼が注文するより先に珈琲を持って行ってみた。




「いつも珈琲を注文して下さるので、先にご用意させていただいたのですが…宜しかったでしょうか?」


「…ありがとう」



珈琲と私を交互に見つめ、彼は感謝の言葉を口にした。
始めて彼の声を聞けた。
思っていたより高くて澄んだ声にびっくりした。

その日、彼は何度か珈琲を注文し閉店間際まで滞在していった。






そういえば、彼がいる時は不思議と客足が遠のくなぁ。









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