一言で言おう、俺は欲求不満だ。
つまり、ヤりたい。セックスしたい。
そう、穴があったら入りたいお年頃…はもうとうに過ぎているが、いつだって男は女が好きだ。セックスが好きだ。これは男として生を受けた時から抗うことができない本能。つまり、俺は全くもって悪くない。


昼過ぎ。渋谷のセンター街。人が小さなアリンコに見えるくらい、街は人で溢れ返っている。
適当にそこらの股が緩そうな女でもひっかけてご飯奢ってラブホにでも連れ込もう。そう意気込んでスマホを片手に辺りをキョロキョロ見渡していると、周りの奴らが男女問わず頬を染めてある一点をうっとりとしながら眺めていた。


「………すっげー美人…」


無意識のうちに口から出ていた言葉にハッとする。勝手に心の中の声が漏れてしまうくらい、周りの視線を独り占めしている女は異次元の美しさだった。
透き通るような真っ白な肌、大きな瞳にそれを縁取るふさふさの長い睫毛。鼻筋が通っている小さな鼻に、形の良い薄桃色の唇。それらが全て小さすぎる顔に絶妙なバランスで収まっていて、その女の周りだけキラキラと輝いて見えるくらい、彼女はあまりにも美しかった。


はー…と気だるげに吐かれる溜息に、周りの野郎共が一斉に鼻の下を伸ばした。勿論、俺も。色っぽい。つまり、存在がエロい。つかスタイル良すぎじゃね?真っ黒な袖なしのタートルネックに細身のジーンズがここまで似合う女っているの?いや現在進行形で今俺の目先にいるのだけれど。

美女は色素の薄いサラサラのロングヘアーを靡かせながら歩きはじめて、俺の目の前を横切った瞬間、本当に無意識に、彼女の肩を掴んだ。…掴んでしまった。


「……なにか?」


鬱陶しそうなその顔もとてつもなく綺麗ですね。間近で見てもまじで美人。毛穴一つない。一体どんなスキンケアしてるの?俺の今までのセフレや元カノなんかみんなすっぴんとメイクの差やばすぎてドン引きだったよ?いや君のすっぴんは知らないけど、絶対美人でしょ。確定でしょそんなん。あまりに綺麗すぎて言葉がでない。でも何か言わなくては。唇がはくはく動くだけの俺に、美女は痺れを切らせたのか俺の手を軽く振り払った。


「こっこここ、これからお食事でもどうですか?」


ど、吃ったー!!くっそダッセーな俺!!ナンパなんて朝飯前のはずなのに!!
美女は俺の誘いに進めていた足を止め、そしてジーっと俺のことを見つめると、ふわりと天使のような笑みで口を開いた。


「20点」
「は?」
「ねえ、ナンパする相手間違えてない?」


クスクスと、人を小馬鹿にするような笑みに俺の顔はまるで沸騰したかのように熱くなる。
美人は性格が悪いとはよく言ったものだ。
20点とはつまり、俺の顔面の評価なのだろう。
…バリッバリの赤点じゃねーか!
恥ずかしいやら情けないやら色々な感情が混じり合ってよく分からないことになっている俺に対して、美女はカツカツと高めのヒールの音を鳴らしながら距離を詰めてきて、ヒュッと息を飲む。ぜってー性格悪いのに、それなのに、やっぱり美人はどこまでも美人で、俺の顔はだらしなく緩むばかりだ。この女、絶対今までこの顔で全てを許されてきたに違いない。


「さとる」


…さとる?美女の視線は俺の後ろの方に向けられていて、咄嗟にバッと振り向いて、そして目を見開いた。


「希〜LINEも電話もシカトって酷くない?」
「10分遅刻。これで何回目?」
「…4回目です」
「ねえ知ってる?仏の顔も三度までって」
「希は女神様だから仏じゃないでしょ」


え…彼氏?!この会話的に彼氏なのか??!
つかデケェーー!!そしてサングラス越しでも分かるほどめちゃくちゃイケメン!!!!そりゃ美女が俺のことを20点呼ばわりするのも分かるわ!悔しいけど!死ぬほど悔しいけれども!この白髪超絶イケメンなんて満点間違いなしだろ!いやむしろ100点超えて1億点?だわ!!!


「…で、お前はだあれ?」


周りの温度が一気に下がる。空気が凍りついて、そのあまりの殺気に足が竦んでしまう。
一瞬で俺の目の前まで来たその男は、俺を下から覗き込むように見て、そのサングラス越しの冷めた眼差しに上手く息が出来ない。


「まさか僕の彼女にナンパなんて、そんな命知らずなことしてないよね〜?」


殺される。間違いなく、肯定したら殺される。俺の本能がこの男はヤバイと必死に叫んでいる。逃げなくては、早く、ここからすぐに、逃げーー


「さとる」
「なあに、希」
「そもそも悟がデートに遅刻したから悪いんだよ?私くらいの美人、ほっといたらいくらでも男なんて群がってくるんだから。そんなこと、馬鹿でも分かるでしょ?」
「…あのさあ、死ぬ気で任務終わらせて私服に着替えて急いで来たのにその言い草「は?」
「いやなんでもありません…すいません…」
「ナンパされるのが嫌だったら、これから遅刻しないでね?約束」
「…分かった、約束する。ごめんね、希。愛してるから、そんなに怒らないで」


さっきまでピリピリと痛いくらい張り詰めていた空気が一気に緩むのが分かって、ホッと胸を撫で下ろす。た、助かった…!!ありがとう女神様!ありがとう神様!ありがとう仏様!!
つかこの彼氏、彼女に弱すぎじゃね??どんだけ彼女のこと溺愛してるんだよ。気持ち分かるけど。共感しかないけど。


「じゃ、じゃあ俺はそろそろ…」


お邪魔虫はそろそろ退散しますね…。

足を進めようとしたら、ガシッととんでもない力で肩を掴まれて、思わずヒッと情けない悲鳴が上がる。




「次僕の彼女にナンパしたら、殺す」




安心して下さい。二度とそのような命知らずな真似は致しません。
ガタガタと震える足のまま走り去る俺を見ながら、彼女はクスクスと笑っていた。