「ずっと貴方のことが好きでした」
まるでひと昔前の少女漫画のような告白だと思った。肩まで伸びた黒髪に眼鏡をはめていて、よほど緊張しているのか、その身体は僅かに震えている。大人しそうな子。補助監督とは言え、こんな子が生きるか死ぬかの世界に身を置いてるんだから人は見かけによらないなあ、なんて他人事のように思った。
さて、彼はどう返事をするのだろうか。
授業が終わって職員室に向かう途中の今は使われていない空き部屋で、聞こえてきたまさかの告白。正直、他人の色恋沙汰には全く興味ないし、普段の私なら間違いなくそのまま通り過ぎていただろう。そんな私が何故、気配を消してまで立ち聞きをしているのか。答えは簡単だ。
その告白されている相手が
私のかわいいかわいいかわいいかわいいななみん♡だからだよ!!!(ドーン)
付き合うのか?それとも断るのか?
もう気になって気になって仕方ない。
ていうか今ななみんに彼女いたっけ?
ちょくちょく聞いてるけどその度にのらりくらりと交わされている気がする。
「すいません。私は貴女の気持ちには応えられません」
わーーマジか!振っちゃったよ。
すぐにひっくひっくと補助監督の女の子のすすり泣く声が聞こえてくる。今もし彼女がいなかったら、100%のうちの90くらいの割合でOKすると思ったんだけどなあ。あの子、ななみんの好きなタイプっぽいし。いや、ななみんの好み知らないけど。私の顔がタイプじゃないってことしか知らないけれど!もしかして今付き合ってる子とかいるのかなあ?
何事もなかったかのように空き部屋を通り過ぎて職員室に向かう。
ガラリと扉を開くと、すぐ目の前に悟が立っていて少しびっくりする。
「わ、希だ〜♡」
「悟。ここ、職員室」
「ん〜?今生徒いないし別に良くない?」
「学長が睨んでますーーー」
「気のせい気のせい!ていうかもしかして希チャン機嫌悪い?」
「別にぃ」
もしかして、私ってななみんのこと全然知らないんじゃ…?
▽
「なーなみん♡」
後ろから抱きしめようとしたらスッと華麗に交わされる。はー…と溜息を零しながら眉を潜めるななみんを見てクスクス笑う。かわいいなあ。
「…何笑ってるんですか」
「ん〜?やっぱりななみんはかわいいなあって思って」
「何度も言っていますが、男にかわいいは褒め言葉ではないですよ」
「私は褒め言葉としてじゃなくて、ただ事実を言ってるだけですぅ」
「…屁理屈女」
「え?なんて?」
「…なんでもないです。で、私に何か用ですか」
伊地知から今日のななみんのスケジュールを(脅して)送ってもらっているから、もう今日の任務が終わっていることは知っている。
肩をぐいっと組んで顔を覗き込むと、ななみんの身体がぐっと強張った。
「これから飲みに行くよ。先輩命令」
「今日は予定が…「先輩命令」
「…五条さんに許可はもらっているんですか?」
「悟は今任務中でいないし、硝子に口裏合わせてもらうから大丈夫。私はこれから硝子と居酒屋に飲みに行くの」
「バレますよ。絶対バレます。この間のこともう忘れたんですか?良い加減学習して下さい。被害を被るのは、いつも貴方じゃなく私だということを」
そう言って遠い目をするななみんに、数週間前のことを思い出す。その日も今日みたいに、私が半端強制的にななみんをご飯に連れ出した。勿論、悟にバレると怒られるから冥さんを買収して口裏を合わせてもらうという完璧な計画まで立てて。それなのに、どこでどう知ったのか、悟は冥さんに私がななみんとご飯を食べに行っていることを聞き出し(絶対とんでもない額を払ったんだろうなあ)私とななみんがいるイタリアンレストランに乗り込んできて、それはもうこっぴどく怒られた。主にななみんが。そして次の日ななみんは長期出張に駆り出された。100%悟の仕業だろう。
確かにこんなことがつい最近あったばかりだから、ななみんが警戒するのも無理はない、か。
「じゃあ、少しでいいからななみんの時間を私にちょうだい」
「は?」
「一緒にベンチに座って、話そうよ。それくらいなら別にいいでしょ?」
悟にも怒られないし。ペロッと舌を出すと、ななみんは片手で顔を抑えながら「貴方って人は…」と呆れながら呟いて、そしてベンチにそっと腰を下ろした。いつもそう。嫌がるくせに、面倒くさがるくせに、ななみんは私を拒絶しない。何だかんだ仕方ないなあって感じで付き合ってくれる。そういうところがたまらなくかわいくて大好きなことに、ななみんは気付いているのかなあ?
「貴方のような忙しい人が、何故貴重な時間を私なんかに割くのか、理解に苦しみます」
「ななみんのことをもっともっと知りたいなあって思って。それだけじゃ理由にならない?」
「…はあ?」
心底意味がわからないと言いたげなななみんに、肘で頬杖をつきながらじーっと見つめる。
「クウォーター。1級術師。7月3日生まれ。酒豪。自炊が得意。パンが好きで残業は嫌い。私が知ってるななみんのことって結局誰でも知ってような薄っぺらい内容なんだよね〜」
「薄っぺらいってなんですか、失礼ですよ」
「もっと教えてよ、ななみんのこと。そうだなあ。まずは手始めに、好きな女性のタイプは?」
なんでそんなこと貴方に言わなければならないんですか。と顔に書いてる。無表情に見えて、意外と分かりやすいんだよなあ、ななみんって。
「…それ、清宮さんが知る必要あります?」
「ある。私、ななみんの飼い主だもん」
「…少なくとも人をペット扱いする女性は好みではないですね」
「はははっ!言うねえ!」
「爆笑じゃないですか」
笑いすぎてひーひー言っている私を冷めた目で見ているななみん。
「あー…笑った笑った」
「貴方の笑いのツボが分かりません」
「うん。自分でもよく分からない」
「なんなんですかそれは」
ふっと小さく笑うななみんに思わず見惚れてしまう。笑ってるななみんなんて久々に見た。
「彼女はいるの?」
「いませんよ」
「今は作る気ないの?」
「別にそういうわけではないです」
じゃあ、あの補助監督の女の子はななみんの好みじゃなかったんだ。へえ、意外。
「ななみんはさあ」
「はい」
「私の顔好みじゃないんでしょ?じゃあ、私と真逆の女の子がタイプなの?」
「はい。そうですね」
「即答かよ」
迷わずそう言うななみんにケラケラ笑う。今まで男にちやほやされたことしかないから、こういう反応は新鮮で面白い。
「もっと教えてよ。みんなが知らないななみんのこと、私にだけに」
かわいい後輩。私のペット。大好きなななみん。
まだまだ知らない、ななみんのこと。もっともっと知りたい。これからたくさん教えてね。私もななみんに、いっぱい私のこと教えてあげるから。
呆れた顔をしているななみん。それでもまだ私の隣に座ってるんだから、かわいいんだよなあ。
おまけ
「どうしても…っ私じゃ、だめですか?」
「すみません」
「本気でっ…本気で七海さんのことが好きなんです…っ」
「あまり女性にキツイことは言いたくありませんが、貴方、同僚の方と清宮さんの悪口を言っていましたよね」
「えっ…聞いていたんですか?」
「あんな誰でも通る高専の敷地内であまり人の悪口は言わない方が身のためですよ。偶然聞いたのが五条さんではなく私だったからまだ良かったものの…」
「で、でもっ、七海さんも清宮さんのこと苦手…ですよね?」
「苦手ですよ。でも、清宮さんのことを死ねばいいと言っていた貴方を嫌悪するほどには、彼女のことを信頼し、尊敬しています」
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