東卍の紅一点



「キャー!!!」
「おめでとぉぉぉ紗羅〜!!!」


マイキーと復縁したことをヒナとエマに話したら、2人ともまるで自分のことのように喜んでくれて、嬉しいけどほんの少しだけ照れ臭い気持ちになってしまう。それでも2人にぎゅうぎゅう苦しいくらいに抱きしめられて、自然と頬が緩んでしまうのはやっぱり嬉しい気持ちの方がずっとずっと大きいから。


「それでっ、紗羅ちゃんはいつマイキー君と復縁したの?」
「…マイキーとケンちゃんが仲直りした日の夜?」
「はあ!?ちょっとぉ!なんでその日のうちにエマに報告してくれなかったの〜!?」
「いや夜遅かったしエマ寝てるかなあって…」
「じゃあ朝一に報告してよぉ!ウチら一緒に暮らしてるんだから!」
「ふはっ。うん、そうだね。ごめんねエマ」
「ごめんじゃないよもう〜!紗羅のばか〜!!」
「まあまあエマちゃん落ち着いてっ」


ぽかぽかと頬を膨らませているエマに叩かれてヒナがそれをまあまあなんて困った顔をしながら宥めている。かわいいなあ、2人とも。
浴衣着てるから?普段もかわいいけどいつもよりずっとずっとかわいく見えるから不思議。
2005年8月3日。今日は約束通りマイキーとケンちゃんとタケミっちとエマとヒナと私で武蔵祭りに行くから、お昼過ぎにヒナの家に女子3人で集まって浴衣の着付けをしている。今まで同性の友達なんてエマくらいしかいなかったからこの感じにはまだ少し慣れないけれど、それでもこうして集まって浴衣を着付けながら恋バナをしたりするのは楽しいなあ、なんて素直に思う。喧嘩に明け暮れていたあの頃の自分が今の私を見たらきっとびっくりするだろうな…。


「……エマごめんね?許して?」
「そんなかわいい顔しても許しませーーん」
「エマに言うのちょっと恥ずかしかったの…。分かってよぉ…(ウルウル)」
「は?許す」
「はっっっや!!!」


待ち合わせの時間までまだ余裕があるからテレビを見ながら恋バナに花を咲かせていた。ヒナはタケミっち、エマはケンちゃん、私はマイキーの話ばかり。みんなみんな、全力で恋をしている。だからこそ、お互いの気持ちが分かるから話しが尽きなくて楽しい。


「あれ?マイキーからだ」
「電話?」
「うん。ちょっとごめん」


ヒナのベッドから立ち上がって部屋を出てそのまま廊下でマイキーからの電話にでる。


『もしもし』
『あ、紗羅…俺だけど』
『うん。どうしたの?』
『ホントごめん。今日の祭り行けなくなった』
『え?なんで?体調悪い?』
『…悪ぃ。この埋め合わせは必ずするから』
『理由も教えてくれないの?』
『…ごめん。帰った時にちゃんと理由話すから』
『意味わかんない。もういいよ』
『紗羅っ、俺っ』


何か言いたげなマイキーを無視して電話を切る。その後も何度も電話がかかってきたから携帯の電源を切った。


ハァ、とため息を吐きながらヒナの部屋に戻る。今日は復縁してから初めてのデートだなんて楽しみにしていたのは私だけだったの?浮かれて浴衣まで着ちゃってばかみたい。


「紗羅〜マイキーからお願いだから電話に出てってメールがたくさんきてるんだけど…」
「喧嘩しちゃったの?」
「…マイキーお祭り来ないんだって。理由聞いても話してくれないしもうあんな奴知らなあい」
「えー!マイキーこないの!?あんなに楽しみにしてたのに!」
「何か理由あるんだよきっと!」
「その理由を今話してくれないのも意味わかんないし。マジむかつく」


ぷりぷり怒っているのをヒナとエマは必死に聞いて宥めてくれたけど私の怒りはどんどん増していくばかりでケンちゃん達との待ち合わせ場所に着いた頃にはその怒りはピークに達していた。
マジで来てねえじゃんふざけんな。


「ゴメーンお待たせ!」
「すげー待ったし。…で、なんでコイツはこんなに不貞腐れてんの?」
「あー…ちょっとマイキーと喧嘩しちゃったみたいで」
「オマエら復縁しても喧嘩ばっかなのは変わんねぇな」
「えっ、マイキー君と紗羅ちゃん復縁したんスか!?」
「うん」
「マジで!?全然気づかなかった〜!!」
「復縁したのつい最近だもん」
「てかドラケン2人のこと知ってたんだー」
「おう。マイキーが嬉しそうに話してきたし」
「やっぱりマイキー君は紗羅ちゃんのことが大好きなんだねっ!」
「マイキー紗羅にぞっこんだからね〜」
「…そういうのいいから(ツーン)」
「「「(頼むから機嫌治してえええ)」」」


分かってる。みんなは何も悪くない。だけどどうしたって、ここにマイキーがいたらって考えてしまうの。ヒナの浴衣姿を見て頬を赤らめるタケミっち。エマの浴衣姿を見ていつも通りだけど無意識にエマのことばっかり目で追っているケンちゃん。羨ましいなあ、って思う。私の浴衣姿を見たら、マイキーはなんて言ってくれる?どんな顔をしてくれた?
なんでここに、マイキーはいないの?
目頭がぐっと熱くなって、ケンちゃんにぎゅうっと抱きつく。一瞬キョトンとして、そしてすぐにどーした?なんて優しい声色で頭をよしよしと撫でてくれるケンちゃんに堪えていた涙がポロポロと溢れ出す。


「紗羅〜泣かないでよぉ!」
「紗羅ちゃーんっ!!」


みんなに心配かけている。こんなんじゃダメだって分かってるのに私はやっぱりいつだって子供のままなんだ。










「ドラケン」


しばらくみんなに甘やかされて泣き止んだ頃にはすっかり私の機嫌は良くなっていた。泣いてスッキリしたし、それになによりみんなが傍にいて抱きしめてくれたから。

それからエマとケンちゃんと私、ヒナとタケミっちと分かれて行動をしていたらいきなり大声でケンちゃんを呼ぶ聞き慣れた声に後ろを振り返る。ザァザァと、途中から降りはじめた雨の音が耳に響く。


「おーぺー?どうした?タスキなんかかけて」
「深刻なカオしてどーしたの?」
「ぺーやん?」
「エマ。紗羅。コレ持って向こう行ってろ」
「え?」
「ヤダ」
「ヤダじゃねえ。オマエ浴衣だろ。エマとあっち行ってろ」
「ケンちゃん、」
「大丈夫だ、俺を信用しろ」
「……うん」
「ぺー。やっぱオマエは納得いかねえか…」
「……」
「俺が気に入らねえんだろ?タイマンか?

買ってやるよ」
「ドラケン!!」「ケンちゃん!!」
「!?」


ゴッと鈍い音が辺り一面に響き渡る。ケンちゃんが背後から男にバッドで殴られた音。心臓がバクバクと嫌な音を立てる。…ぺーやんが裏切った?なんで?どうして?いくらパーちんのことでケンちゃんのことが気に入らないのだとしてもこんな卑怯なやり方でケンちゃんを襲うなんてぺーやんが考えるとは思えない。
ゾロゾロと愛美愛主の特服を着た男達が集まりだす。バッドで思いっきり頭を殴られているケンちゃんがこの人数を1人で相手にするのはあまりにも無謀すぎる。しかもここには、エマもいる。


「紗羅はエマの傍にいろ」
「でもケンちゃんっこれは流石に「オマエはぜってえ手出すなよ。分かったな?」
「……でも、「紗羅!!!」……うん」


浴衣なんかで来なければ良かった。エマが不安そうに涙目で私の腕をぎゅっと握ってくる。ダメだ、私がしっかりしないと。エマは絶対に私が守る。


「あ…」
「どうしたの?紗羅…」
「………マイキー」


携帯の電源をONにして、すぐに履歴からマイキーに電話をかける。『紗羅?』鼓膜に響くその声に、安心して涙が出そうになる。


『マイキー…っ、ケンちゃんがっ、』
『場所はどこ?』
『武蔵祭りのっ、ウラの駐車場っ』
『分かった。すぐ行く』


お願いマイキー。ケンちゃんを、助けて。

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