東卍の紅一点



「タカちゃん…タケミっち…」
「紗羅ちゃん、エマちゃん」
「ぺーやん!テメェ‼!何愛美愛主とつるんでんだよ」
「ウッセェ三ツ谷テメェも殺すゾ」
「弐番隊隊長の三ツ谷だ」
「強ぇぞ」
「ぺーやん卑怯だよ!!いきなり後ろからバットで襲ってこんな大勢連れてきて」
「……」
「それでも男!?」


エマが声を荒げる。エマの言う通りだけど…どう考えてもこんな卑怯なことをぺーやんが考えるとは思えない。

…誰かがぺーやんをそそのかした?
一体誰が?
なんのために?

頭から大量の血を流しながら戦っているケンちゃん。なのに私は何もできない。ケンちゃんに止められてしまうから。ああ…私はなんて無力なんだろう。胸がじくじくと痛んで、苦しい。

タカちゃんとタケミっちは来てくれたけど、マイキーはいつ来るの?焦りと不安から嫌な汗が頬を伝う。
一刻も早くケンちゃんを病院に連れていかなくちゃまずいことくらい私でも分かる。それくらい…出血の量が多すぎる。


「あーー疲れたぁ…」
「ドラケン君…大丈夫スか!?」
「流石に20人が限界か…あとは頼むぞ…三ツ谷。アタマ痛え」
「ウッス」
「テメェら二人で敵うと思ってんの?」
「ウッセェボケ」
「そこの浴衣の女、東卍の姫だろ?」
「めっちゃかわいくね?」
「オマエらシメた後俺らでたーっぷりとかわいがってやるからなぁ♡」
「あ?コイツに指一本でも触れたら殺す」
「ヒュー‼‼かっけえー」
「三人まとめてやっちまえ」


タカちゃんのことを信頼してないわけじゃない。タカちゃんの強さを私はずっと傍で見てきた。一緒に戦ってきた。だけど流石に状況が悪すぎるよ。

エマが涙目で私も見つめている。そんなエマの頭をよしよしと撫でる。ダメだ、私がこんな顔をしていたらエマはもっと不安になってしまう。しっかりしろ、絶対に大丈夫。だって、だって。きっともうすぐーー。


バブー


「ふん!やっと来た!」
「この排気音」
「マイキーの“CB250Tバブ”だ」


ズザァァァとバブに乗ったマイキーが現れる。派手な登場。愛美愛主の連中がマイキーの登場にどよめきはじめる。


「紗羅。お待たせ」
「…すぐ行くって言ったくせに…遅いよ、バカマイキー」
「ごめんな」


目を見開くぺーやんと安堵するタケミっち。マイキーは「なるほどね」と辺りを見渡すと、「オレを別のトコ呼び出したのはケンチン襲う為ね」そんな言葉を口にして、思わず「え?」と声が漏れる。急に一緒にお祭りに行けなくなったのはこれが原因だったんだ…。理由を聞いても話してくれなかったのは、きっと私に心配かけたくなかったから。マイキーはたった一人で解決するつもりだったんだ。それなのに私は、何も知らないで一緒にお祭りに行けないことに怒ってばかりで…。あまりの自分の情けなさに、ギリギリと歯軋りを立てる。


「で、オレのせいにして“東卍”真っ二つに割っちまおう…と」
「オレはただパーチンを!!」
「これはオマエのやり方じゃねぇ!

誰にそそのかされた?」


やっぱりマイキーもそう思うよね。ぺーやんみたいな真っ直ぐな人が、こんなやり方をするなんて考えられない。だとしたら…ぺーやんを操ってる黒幕が…きっと、いや絶対に、いる。


「へー意外。マイキーってアタマもキレるんだね。

だりぃ」


手の甲に“罪”と“罰”の刺青。それにしてもタッパあるな…。


「…誰?」
「オレが誰とかどーでもいいけど、一応今“仮”で愛美愛主仕切ってる、半間だ」
「オマエが裏でネチネチしてるキモ男?」
「面倒クセェなぁマイキーちゃ…


んっ」


えっ!?あまりの衝撃に目を見開く。ウソでしょ?あのマイキーの蹴りを止めた…!?


「そんなに急ぐなよマイキー。
オレの目的は“東卍潰し”かったりぃから内部抗争っしょ。でも結果オーライかな。これで“無敵のマイキー”をこの手でーーぶっ殺せるからな!!」


コイツが黒幕なの?それにしては…


「愛美愛主総勢100人、東卍4人相手だ。東卍の姫は戦えねえ。前みたいにヒヨんじゃねぇぞテメエら!!
オレは長内みたいに甘くねえからよぉ」
「「「ウッス!!!」」」
「逃げたら追い込みかけて歯全部なくなるまでボコるかんな!!?」
「「「……ッウッス!!!」」」
「マイキーもドラケンもまとめてみなごろしだぁ♡」


もう、いい。後からケンちゃんに説教されようが、東卍のメンバーである私がなにもせずにただ傍観してるだけなんて耐えられない。エマと繋いでいた手をそっと離すと、エマが不安そうに「紗羅?」と顔を見つめてくる。ごめん。ごめんね、エマ。エマにそんな顔をさせたいわけじゃないのに…。

ーーその時だった。

聞き慣れたバイクの排気音が辺り一面に響き渡る。


「ふー間に合ったか」
「え?」
「タカちゃんが呼んでくれたの?」
「おう」
「ありがとう…っ」
「オマエだってマイキー呼んでくれたじゃん」
「えっ」
「流石ウチの護衛隊長だわ。ありがとな」


そう言って優しい眼差しで私の頭をぽんぽん撫でてくれるタカちゃん。やっぱり私の考えてることなんて全てお見通しだったんだ…。今なら携帯の待ち受けをタカちゃんにしてる八戒の気持ちが痛いくらいわかる…!


ムーチョとスマイリーと圭介がみんなの前に立つ。それだけでさっきまでとは比べ物にならないくらいの安心感に包まれる。これは東卍のメンバーに対しての、絶対的な信頼感。私がいなくても、みんなは…東卍はーー愛美愛主なんかに、負けない。


「紗羅。エマを頼んだ」
「うん」
「祭りの日に大乱闘…血が踊るじゃねぇかよ」
「ダメだ…」
「タケミっち?」
「なあ?マイキー!!」
「ハハ

いくぞオラぁあ!!!」
「やっちまえ!!!」


エマの手を引いてその場を後にする。途中でヒナと合流して、少し離れた場所まで移動した。私が今すべきことは、この2人を守ることだ。


そんな時だった。タケミっちの叫び声が、響き渡ったのは。


「ドラケン君!!!」
「え!?」
「ケンちゃん?!」
「ドラケン君!?ドラケン君!!!!」
「どうした!?タケミっち」
「ドラケン君が…ドラケン君が

刺された」





この後の記憶はほとんど残っていない。
ただ目の前が真っ暗になって、呼吸の仕方さえ忘れそうになった。

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