東卍の紅一点
じりじりと容赦なく照りつける日差しに額から汗がとめどなく流れる。
暑い。暑い。暑すぎてそろそろ本気で干からびそう…。死にそうな私に反して、蝉は元気よくミンミンと大合唱している。あ〜〜真夏の太陽が眩しい…!
隣で歩いているエマは暑さなんて微塵も感じていないような顔をして爽やかに歩いている。…え、なんなのこの差。じーっとエマを見ていると、ようやく私の視線に気付いたエマが私を見て、そして不思議そうに目を丸くする。かわいい。
「どーしたの?ウチの顔になんかついてる?」
「エマっていつ見てもかわいいなあって思って」
「え!?!!いきなりなに!!??」
「いやふと思った」
「デレ期だ。紗羅のデレ期きた」
「私エマにはいっつもデレてるじゃん」
「うそだあああ」
「うそじゃないですぅ」
エマがニマニマしながらぎゅ、と腕を組んでくる。暑苦しいことこの上ないけどエマのかわいさに免じて許す。ほら、私エマにはいつもこうなんだよ。甘々なの。
「ねえ、もうすぐマイキーと紗羅の誕生日じゃん?今年も2人で一緒に過ごすの?」
エマの言葉に、んーと少しだけ考えてみる。
マイキーと私の誕生日は5日しか違わないから、何だかんだでマイキーの誕生日は2人だけで過ごしている。プレゼントを渡しあったり、ケーキを一緒に食べたり。それで、私の誕生日は毎年佐野家でみんなにお祝いしてもらってる。これはもう毎年の恒例行事みたいになりつつあるんだけど…うーん。今年はどうなんだろう?
「元カレと誕生日一緒に過ごすのっておかしい?」
「ん〜世間一般から見たらそうかもしれないけど、マイキーと紗羅は違うじゃん」
「何が違うのーー」
「幼馴染だし!!!」
「それ余計に気まずくない?」
「気まずくないない!マイキーと紗羅だもん!」
「なにそれ意味わかんない」
可笑しくてフハッと笑うと、エマがむっと頬を膨らませる。
「だって2人が気まずくなるの嫌だもん…」
「さみしいの?」
「…うん」
えーなにそれ。エマの素直すぎる反応に、自然と頬が緩んでしまう。かわいいなあ。
「マイキーと紗羅が気まずくなって離れちゃうなんてやだよ…」
「エマって私達のこと好きすぎじゃん?」
「好きでわるいかーー!!」
「あーもうなにこのかわいい子!ケンちゃん早くうちの子を幸せにしてあげて!!」
ぎゅうっとエマを抱きしめる。そうだよね。エマにとってマイキーは実のお兄ちゃんだけど、私だってエマにとったらお姉ちゃんみたいな存在なんだもん。
私達が付き合った時に、
「じゃあマイキーと紗羅が結婚したら紗羅はエマの本当のお姉ちゃんになるんだねっ!」
そんなことをエマは目キラキラと輝かせながら、本当に嬉しそうに言っていたっけ。私達が付き合ったことを誰よりも喜んでくれていた。
正直言って、今年の誕生日はマイキーと過ごさないつもりでいた。だけど…エマの言う通り、マイキーと気まずいままでいるのは嫌だし、私から誘ってみようかなあ。
「……マイキーの誕プレ、一緒に選んでくれる?」
「!うんっ」
この笑顔、守りたい。
▽
次の日。学校に向かっている途中でまだ眠たそうな顔で大きな欠伸をしているマイキーに、昨日の話をしてみる。
「ねえ、マイキー」
「ふぁ〜〜。ん〜?」
「今年はどうする?誕生日」
「どうするってー?」
「マイキーの誕生日、うちん家くる?」
「え、当たり前に行くつもりだったけど」
「ん。じゃあケーキ用意しとくね」
「………ん」
「マイキー?」
頬を膨らませながら視線を逸らすマイキーを不思議に思って首を傾げると、ケンちゃんがニヤニヤしながらマイキーの頭をぐちゃぐちゃに撫で回す。「あ゛?やめろ」不機嫌丸出しのマイキーに凄まれてもお構いなしなところが流石ケンちゃんって感じ。
結局学校に着いてもマイキーの様子は変わらなくて、理由を聞いても答えてくれないマイキーにだんだんと私もめんどくさくなってきて、休憩時間にエマのクラスに向かう。
「あーウチなんとなく分かったかも」
「マジ?流石エマ〜」
「マイキーは当たり前のように今年も一緒に誕生日過ごすつもりだったのに、紗羅はそうじゃなかったんだって思って寂しくなったんじゃない?多分ケンちゃんも気づいてると思う」
「えー?そんなことで寂しくなるのかな?」
「なるよ。だってあのマイキーだよ?紗羅大好き人間じゃん」
「………でも、私達別れたんだよ?」
「別れてもマイキーはまだ…」
「紗羅」
ハアハアと息を切らしたマイキーがそこにいて、「あ、マイキー。どーしたの?」なんて声をかければ、マイキーは変わらずムッとした顔でズカズカと距離を詰めてくる。え、マジでなに。私の隣でエマはクスクスと笑ってる。
「勝手にいなくなるなよ」
「えぇ?だってマイキー寝てたじゃん」
「起こせばいいだろ」
「もっと不機嫌になるのやだもん」
負けじとムッと頬を膨らませると、マイキーに腕を掴まれる。
「紗羅が勝手にいなくなる方が不機嫌になる」
「あーはいはいマイキーくんは甘えん坊だもんねえ」
「あ?」
「ジョーダンデス」
「帰ろ」
「え?今から?」
「ん」
「ケンちゃんは?」
「置いてく」
「なにそれーー」
乗り気じゃない私にお構いなしのマイキーはそのまま私の腕を引っ張りながら足を進める。いつもに増してワガママなマイキーにげんなりするけどまあ我らが総長は基本的にこんな人間だから仕方ない。
「もー!」
後ろからエマの声が聞こえてくる。振り向けば困ったような、それでいてほんの少しだけ嬉しそうな顔をしているエマと視線が交わって、かわいいなあ。と頬が緩む。もぉどんだけ私とマイキーに復縁してほしいのー。頼むからケンちゃん早くうちのかわいいかわいい妹に告白してやって!!心の中で大声で叫んだ。どうか私のお願いが神様に届きますように。
▽
「ところでマイキーくん」
「……」
「君はなんでそんなに拗ねてるのかな?」
「…別に拗ねてねえし」
「じゃあさみしいの?」
「は?」
「いや、エマがそう言ってたから」
「…さみしいっつーか、」
「うん」
「…や、なんでもねえ」
「え、なに、ちゃんと言って」
視線を逸らしているマイキーの顔を覗き込むと、子供みたいな拗ね顔をしているマイキーと視線が合わさる。は?なんなのめっちゃかわいい。
「……誕生日さ」
「うん」
「俺らいつも一緒にお祝いしてたじゃん?」
「そうだね」
「なのに今年は聞いてくるから…オマエにとったらそれはもう当たり前のことじゃなくなるんだなあって思って、なんか、うん。嫌だなあって、思った」
「……だって、」
「………だって、なに。別れたから?」
こくん、と頷くと、マイキーがムッとした顔で私を睨みつける。
「別れても、オマエは俺のだから」
「え」
「新しい彼氏なんて作ったらその彼氏ぶち殺すしこの先の誕生日だってずっと紗羅は俺と過ごすしばあちゃんにもなってもオマエの隣にいるのはずっと俺だから」
「……ん?」
「だからオマエは変なこと考えんな。マジふざけんなよ。腹立つ」
「…えーっと。ゴメンね?」
「まあ今回は特別に許してやってもいいけど、これからは気をつけろよ」
「………分かった?」
「じゃ、仲直り」
ちゅっとマイキーの唇が私の唇に触れて、ゆっくりと離れてゆく。そしてすぐにまた角度を変えながらちゅっちゅっと啄ばむようなキスをされて???頭の中はハテナマークでいっぱい。
「オマエにキスしていいの、この世で俺一人だけだから」
…もしかしてマイキーは忘れたのかな?
“付き合っていてもなんにも変わらないなら友達のままで良くない?”って言ったのはマイキーの方なんだよ?つまり私達は、今は恋人同士ではなくてお友達なわけで。友達ってキスするんだっけ??そんな疑問がすぐに頭に浮かんだけど、でもまああのマイキーだしと考えるのを放棄した。
そもそも天上天下唯我独尊をそのまま体現したかのようなマイキーにそんな一般常識が当てはまるとは到底思えないしそれに…
「じゃあ、マイキーにキスしていいのは、この世で私だけだね?」
私も大抵、ワガママな女だから。
別れてもマイキーには私だけを見てほしいし、考えてほしいし、触れてほしい。毎日そんなことばかり考えてる私って普通にやばい女じゃない?人のこと言えない。
「うん。俺は紗羅のモノだから。オマエになら何されてもいーよ」
べろりと唇を舐められて、口を開くと瞬く間にマイキーの分厚い舌に絡めとられる。
後数日で私達はまた一つ歳を重ねる。
去年と違うのは、私達はもう恋人同士ではないということ。元恋人で、幼馴染で、同級生で、お友達。
この先どんな関係に変わっても、周りの環境が変わっても、私達は何だかんだこうしてずっと一緒にいるんだと思う。それこそ、おばあちゃんとおじいちゃんになっても。
「はあっ…」
「ンっ…、」
「マイキー、」
「なあに」
「誕生日、楽しみだね」
「朝からずうっと二人きりでいよーね」
「うんっ♡」
願わくば、来年のお誕生日は
またマイキーの彼女でいられますように。
そんなかわいいお願いを胸に秘めながら、ぎゅうっとマイキーに抱きついた。
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