「…なにしてるんですか」
「ドキドキする?」
「しません。しませんから、離れて下さい」
こんな場面を五条先輩に見られでもしたら間違いなく殺される。清宮先輩ではなく、私が。
担任に清宮先輩に渡してほしいと頼まれた書類を2年生の教室まで届けにきたら、何故か清宮先輩しかいなく、聞けば五条先輩達は任務に駆り出されているとか。そうですか、と適当に返事をしながら書類を渡して早々に教室から出ようと足を進めると、いきなりぐいっと腕を引っ張られて椅子に座らされた。ーーは?一瞬何が起こったのか分からず唖然としていると、何を血迷ったのか清宮先輩が私の膝の上に跨って首に腕を回してきたのだ。
いやいやいやいやいやいや。流石にこれはおかしい。いつも距離感が狂っているが、その比じゃないくらいおかしい。こんな場面を他者に見られでもしたら、間違いなく私と清宮先輩がそういう関係だと疑われるだろう。それに、この人には恋人がいるのに、何故他の男の膝の上に平然と乗れるのか。理解に苦しむ。
「やだ。ななみんが私にドキドキするまで離さない」
「は?意味が分かりません。とにかく離して「建人」
いきなり下の名前を呼ばれたかと思ったら、ちゅ、と鼻にキスをされて、思わずグッと眉間に皺が寄る。
「アホ。クソ。クズ」
「え?いきなり酷くない?」
クスクス笑っている清宮先輩の肩をぐいっと押すけどびくともしなくてチッと舌打ちをする。
「離れて下さい。こんなところもし五条先輩に見られでもしたら…」
「ななみんの心臓凄いバクバクしてる。もしかして、私にドキドキしてる?」
「誰かに見られないか、違う意味でドキドキしてますけど」
「嘘つき。勃ってるよ?ココ」
ぐりっと膝で股の間を刺激されて、カーッと顔が沸騰するかのように熱くなって、無理矢理清宮先輩を引き離した。ニヤニヤしている清宮先輩は私の頬を両手で挟んでにこりと微笑む。
「私に興奮しちゃったの?かわいい」
イかれてる。本気でこの人は頭がおかしい。その気が無くても反応してしまう男の本能を、この時ばかりは憎むしかなかった。
「はぁ?貴女になんか1o足りとも興奮していませんよ」
説得力がないことくらい自分が一番分かっている。ふいっと顔を逸らして早足で扉に向かって足を進めた。
穴があったら入りたいとはこのことだ。恥ずかしい。情けない。未だに顔が熱くて堪らない。
「七海」
扉付近の壁に寄りかかってニヤニヤしている家入先輩に顔を顰める。いつからいたんだこの人は。全く気が付かなかった。
「希のお気に入りのオモチャになった気分はどうだ?」
なんて嫌な言い方をするのだろう。
深いため息を零して「最悪ですよ」とだけ吐き捨ててその場を立ち去った。
灰原みたいに人懐っこいわけでも愛嬌が良いわけでも根っからの善人なわけでもない自分のような人間が何故あそこまで清宮先輩に気に入られているのか理解に苦しむが、一つだけはっきりと断言できるのは“清宮希”に気に入られた時点で人生が詰んでいると言うことだ。
窓ガラス越しの青空を眺めながら、私はスッと目を細めた。
「希。いくら七海がお気に入りだからってあんまりイジメすぎるなよ」
「やだー。硝子もしかして嫉妬してるの?大丈夫。硝子のこともちゃぁんとかわいがってあげるから」
「死ね」
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遅れちゃったけどナナミンお誕生日おめでとう!
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