先輩とセフレ関係

夏油傑。2つ下の後輩。呪霊操術だけでなく近接戦闘にも長けているというチート級の強さ。それに加えて端正な顔立ちと物腰の柔らかさでそれはもうモテる。とんでもなくモテる。引くほどモテる。まあこれだけのスペックの高さでモテない方がびっくりなんだけど。

今年の一年は先輩の威厳?何それおいしいの?レベルの粒揃いでおまけに4人共それはもううっとりする程見目麗しい。これ一般の高校だったら絶対他校にもファンクラブできてるわ。
だけど悲しいかな。やっぱり神は全てを与えてはくれなかったんだね。
御三家の五条家の坊は口を開けばただの生意気なクソガキだし清宮はただのイかれたクズだし家入はこの2人に比べると全然まともだけどまああの子はとにかく無気力というか冷めてるし。
だから余計に夏油がモテるのかもしれない。
男の先輩があの4人の中で断トツで夏油がモテると言っていたのも納得できる。

どうして私がここまで夏油のことを語るかって?
それはもう聞かなくても察してくださいよ。






「佐藤先輩って傑のこと好きなの?」

いやお前敬語な。歌姫先輩にも散々言われてるでしょ。

「…バレた?」
「ふーん。やっぱり好きなんだ」

やっぱりってなんだやっぱりって。お前まさかカマかけやがったな。

「先輩知ってる?傑って最近は少し落ち着いたけど普通にセフレたくさんいるし二股だって平気でかけるしたった1人の女に落ち着くような男じゃないよ」
「……へー」
「後巨乳好き」
「なんであんたがそんなこと知ってるんだよ」
「歴代の元カノみんな巨乳だから」
「まじか」

セフレとか二股うんぬんはちらっと噂で聞いたことがあったから一応覚悟はしてたけど巨乳好きは初耳で少しびっくりする。そうなんだ。夏油、あんなに涼しい顔しといておっぱい好きなんだ。しかも大きいの。いや、そもそも男はみんなおっぱい好きだし…うん、夏油はなにも悪くない。
ちらりと目線を下げて自分の胸元を見ると隣の清宮がクスクス笑っていて舌打ちをする。

「笑うな巨乳」
「ハッ、褒め言葉どーも」
「クソむかつくな!!」
「それはこっちの台詞だよ貧乳」

ベーって舌を出されて頭に血が上るのが分かるけどこんなに分かりやすい煽りに乗ってたまるか。そうだ、私はこいつの先輩なんだから。落ち着かないと。てかこいつこんなむかつく顔してるのに信じられないくらい綺麗な顔してるな。普通にそこらのモデルなんかより全然整った顔立ちをしていると思う。

「あ、先輩にいいもの見せてあげる」

にんやり笑った清宮は携帯の画面を見せてきて思わず顔が引き攣る。ベッドに横になってる夏油の上に被さるように抱きついている清宮の写真。絶対口が裂けても言いたくないけど美男美女でかなりお似合いだ。

「よく撮れてるでしょ?悟が撮ってくれたのー」
「…あんた達付き合ってるの?」
「さあね」
「五条は?」
「秘密」
「ほんっと食えないやつ」
「ウケる。嫉妬してやんの」

そうだよ嫉妬してるよ。てか嫉妬してなにが悪い。好きな男が他の女とこんなに密着してる写真を見せつけられたら嫌な気分になるに決まってるでしょーが。
それでも好きなんだから仕方ないでしょ。

「先輩って、傑のどんなところが好きなの?」

さっきまでのふざけた口調とは打って変わって真剣な眼差しで見据えてくる清宮。
好きなところなんて数えきれないくらいあるよ。
顔がかっこよくて、背が高いところ。くしゃって笑うところ。真面目で、物腰が柔らかくて聡明なところ。その割に意外と短気で悪ノリが好きなところ。
それでも1番好きなところはーー。

「なんでも完璧にこなせるのに、どこか不器用で、生き辛そうなところ」

だから傍にいたいって思うんだ。柄にもなく、守ってあげたいと思う。力だと私なんかより夏油の方がずっとずっと強いんだけどね。

「ふーん」

自分から聞いてきたくせに興味がなさそうに返事をしてそのまま携帯をいじりはじめる清宮。…うん。この子はこういう子だからいちいちイライラしてたらきりがないのは分かってる。ため息をつきたいのを抑えて私も携帯を見ると受信メールに1件、見慣れた名前が表示されていてさっきまでの憂鬱な気分が嘘のように晴れていく。

“任務終わったかな?希にバレないようにね”

あーまじでクソだな。でも大好き。

“任務終わって清宮と迎えの車乗ってるよ〜!夏油のこと好きなのか聞かれたけどセフレの関係はバレてないから安心してね!”

“お疲れ様。了解”

“早く夏油に会いたい”

“私も早く葵先輩に会いたいよ”

あんたはヤりたいだけの間違えでしょ、とは流石に送れないから変わりに大好きってハートマークをいっぱいつけて送っておいた。その返信は来なかったけど。











2人きりの任務終わり。勇気を出して好きだと告白したらばっさり振られた。なんで?って聞いたらしばらく彼女は作る気がないと言われて、だったらセフレでもいいからと渋る夏油に無理矢理キスをした。夏油は抵抗しなかった。
都合のいい女でいい。夏油がヤりたい時に呼んでくれたらいいから。そう詰め寄ると夏油は少し困った顔をしていた。今思えばもしかして私が巨乳じゃなかったから?なんて思うけどそれは流石に勘違いであってほしい。
夏油は五条が高専内にセフレを作って清宮と揉めたことがあるから絶対に清宮だけにはバレないようにと口酸っぱく言ってきた。
なんで清宮?清宮と五条は付き合ってるって噂があるから揉める理由は分かるけど夏油と清宮は付き合ってないからそこまで気にしなくてもよくない?え、まさか付き合ってるの?清宮、あんたまさか二股かけて…なんて頭の中でぐるぐる考えていたことは一つも言葉にはしなかった。だって、めんどくさい女なんて思われたらセフレにさえしてもらえないと思ったから。


そんな無理矢理はじめた私と夏油の関係。
夏油は一度も私に好きだと言わない。
私が好きって言っても困ったように笑って流すだけ。
清宮は、私が夏油のたくさんいるセフレのうちの1人だと知ったらどんな顔をするのだろうか。
哀れんだ顔をするかな。呆れた顔をするかな。それとも嘲笑うかな。

分かってる。夏油がただの“良い人”じゃないことくらい。それでも、そんなクズで最低な男のことが死ぬほど愛おしいなんて、私もとんだイかれた野郎だ。