非術師とセフレ関係

不毛な恋だと思う。

それでも私は

悟くんが、好き。


「悟くん」
「……」
「ねえ、悟くんってば」
「…あ?」

うるさいって、言われていないけど顔にそのまま書いてある。だけどそんな顔ですらかっこよく見えて胸がきゅんっと高鳴る私は、いよいよ重症なのかもしれない。

「……あのね。もうすぐ、私の誕生日なんだ」
「へえ」
「◯日なんだけど、もし悟くんがその日時間があったら…会いたいな。それで、少しでもいいから、お出かけしたいなぁ、なんて」

無理かな…?断られるの前提で話してるからか、自信がなくて徐々に声が小さくなってしまう。
悟くんは一瞬キョトンとして、そしてすぐにめんどくさそうな顔をして携帯に視線を戻してしまって。まあ、そういう反応されるだろうなとは思ってはいたけど、やっぱり好きな人に冷たくされるのは流石に堪えるものがあるなぁ…。

「別にいいけど」
「あ、やっぱりそうだよね………え?」

驚きのあまり目を見開きながら悟くんを見ると、悟くんは「あ?」と不機嫌そうに眉を寄せる。

「い、いいの!?!?」
「…うるさ。つーかお前から言ってきたんだろ」
「ぅん。でも悟くん忙しそうだから、無理かなあって思ってて…」
「まあ、この日暇だし」
「そ、そっか。良かったぁ…。あ、どこに行く?!」
「別にどこでもいい。葵ちゃんが決めて」

どうでもよさそうにそう言ってまた携帯をパコパコといじりはじめる悟くんとは裏腹に、私は弾む気持ちを悟られないようににやけそうになる顔を必死に抑える。

「はじめてだね…一緒にお出かけするの」
「あー…そうだっけ?」
「うん。楽しみだなあ」

お誕生日に一緒に過ごせるだけでも嬉しいのに、はじめて一緒にお出かけ…デート、できるなんて。そんなの夢みたい。最高のお誕生日プレゼントだよ。

「なあ」
「え?」

悟くんの方を向くと、視界いっぱいに悟くんが広がって、ちゅ。と唇に柔らかな感触を感じる。

「ヤろ」

そのままベッドのシーツに押し倒されて、服の中に手を入れられてあっという間にブラのホックを外されて。今、悟くんの透き通った宝石のような美しい碧の瞳は、私だけを映し出している。

「あっ……はぁ……っん…」

ねえ、悟くん。

好き。好きなの。
本当に、愛してる。
ワガママ言わないから、
都合のいい女でもいいから。

だから、お願い。

あの子じゃなくて
私を貴方の、彼女にして。

そんな願いを込めて、悟くんの背中にまるでしがみつくように手を回した。






「おかえり〜」
「あ、希じゃん。ただいまぁ♡」

我が物顔で俺の部屋のベッドに寝転びながら漫画を読んでいる希の上に覆い被さると、重っっ!!と苦しそうに希が言うから、ニヤニヤしながら離れて隣に寝そべる。

「圧死するかと思った…」
「お前俺をなんだと思ってんの?」
「筋肉ゴリラ」
「あ?それは傑だろ」
「傑に殴られたらいいのに」

けらけらと笑う希がかわいくてぎゅーっと抱きしめると、「…ねえ」といつもより少し低めの声が聞こえて「ん?」と首を傾げる。

「くっさ。女といたの?」

あ。しまった、香水。シャワー浴びる前だったかそりゃ分かるよな。

「あー…ごめん。依頼人の女の匂いが移ったのかも。そんな臭い?シャワー浴びてくるわ」

まあ、勘の良い希のことだから嘘だってバレてるだろうけど、他の女の匂いがついたままだと余計に不機嫌にさせちゃうだろうし…。
浴室に行くために立ち上がろうとすると、ぎゅっと腕を掴まれて振り返る。

「女といたの?」
「…………すいません」

素直に謝ると、「ふーーーーん」と不満げにそう口にして、俺の腕を掴んでいた手が離れていく。

「希?」
「部屋に戻る」
「え、いやまじで希が思ってるようなことはなんもないって!名前も覚えてないしあんな女なんてどうでもいい。俺が好きなのは希だけだよ」

我ながら最低なこと言ってる自覚はあるけど、今はとにかく俺の愛しいお姫様のご機嫌を取らなければならない。でも本当に、俺が愛してる女はこの世でたった1人、希だけ。まだ付き合ってないけど、俺はこの先もずっと希のことしか愛せないし、本気で10年待つ覚悟はできてる。

正直性処理の女なんて使い捨てだし名前も顔も曖昧だしただヤりたい時に突っ込んでスッキリするだけの穴でしかないし。希が嫉妬してくれるのは当たり前に嬉しいしめちゃくちゃ可愛いんだけど、こんなことで俺の希への愛が疑われたらたまったもんじゃない。

「……匂いが移るくらいの距離にいたことがまずありえない」
「うん、それはほんとにごめん…」
「悟が他の女とイチャイチャしてるのムカつく」
「は?なにそれかわいすぎ」
「……」
「ごめんなさい。でもマジでイチャイチャなんてしてない。ただ言い寄られただけ」
「……」
「そんな汚物を見るような目で俺を見ないでー!」
「自業自得でしょ?」
「すいません」

しゅんとすると、希は「はぁぁぁ」と深いため息を溢して、そして「悟が好きなのは私じゃないの?」と頬をぷくっと膨らませながら上目遣いでそんなことを言ってくるもんだから、あまりのかわいさに胸キュンして悶える。かわっ、かわいい!!!!!!!!かわいすぎ!!!!!!!はあ…もう、マジで好き…結婚して。

「ちょっと悟聞いてるの?」
「はーダメ、心臓が苦しい」
「なにそれ」
「ハートのど真ん中射抜かれた……」
「ふは」
「結婚して」
「まだ付き合ってもないのに?」
「結婚を前提に付き合ってくださいお願いします」

バッと頭を下げて手を差し伸べると、希は「ムリ♡」と即答して、撃沈する。

「なんでぇぇ……」
「今日のこと、許したわけじゃないから」
「だからごめんってえ!」
「今日会った女に今すぐ電話して、もう二度と会わないように伝えて」
「…そしたら許してくれる?」
「うん」
「分かった」

……そもそも今日会った女って誰だっけ?
りんちゃん?あんちゃん?ななちゃん?あー……確か葵ちゃんだ。誕生日がどうこう言ってためんどくせえ女。まあ、そろそろ切ろうと思ってたからちょうどいいけど。


着信の履歴から葵ちゃんの名前を見つけて電話をかける。プルルルル…と機械的な音が数秒なってからすぐに『もしもし!悟くん!?』大きな声が耳に響いて、うるさ…と思わず顔を顰める。

『悟くんから電話なんて珍しいね!どうしたの?』
『めんどいから単刀直入に言うわ『え?』お前のことなんてこれっぽっちも好きじゃないから。もう二度と会わない。さよなら』え、ちょっと待って!悟く』プープープー…

まだ何か言いたげだった女の言葉を遮って電話を切ると、隣に座っている希をぎゅーっと包み込むように抱きしめる。

「これで許してくれる?希チャン」
「仕方ないなあ」
「ちゅーしてい?」
「いいよ」

ちゅ、とその薄桃色の唇にキスをする。どんな女を抱いても俺の頭の中はいつだってこの子のことでいっぱいで。希が俺の彼女になってくれたら、セフレだって全部切るし告られても断るしそもそも浮気なんて絶対にしないし希だけしか見ないのに。
希のこと誰よりも大切にするから。
だから、ねえ、お願い。
いつか俺を、希の彼氏にして。





あれから悟くんに何度電話しても繋がらない。多分、いや絶対に着信拒否されてると思う。頭の中がぐちゃぐちゃだ。だってついさっきまで身体を繋げて、誕生日も一緒に過ごしてくれるって約束したのに……なんで…?嘘つき。最低だよ。涙がとめどなく溢れてくる。

もしかして、あの子と付き合うことになったの?
だから私、捨てられるの…????


真っ黒な醜い嫉妬心が胸を覆い尽くす。苦しい。辛い。気持ち悪い。憎い。嫉ましい。


悟くんのことが好きなのに。愛してるのに。こんなの絶対に許せないよ。













あんな女、いなくなればいいのに