非術師とセフレ関係

一目惚れだった。
急に見えない何者かに襲われた私を一瞬で助けてくれた彼のことを本物の王子様のようだと思った。

「怪我は」

そうぶっきらぼうに言って手を差し伸べてくれた彼は信じられないくらいカッコ良くて、木からリンゴが落ちるように、ストンと一瞬で恋に落ちた。

「怪我は…、ないです、」
「じゃあ俺はこれで」

ひらひらと手を振り背を向ける彼の制服の裾を慌ててギュッと握った。彼はゆっくりと此方を振り向き、サングラス越しの綺麗な碧色の瞳が私を映し出す。

「私、佐藤葵って言います。貴方のお名前は?」
「…五条悟」
「悟、くん。あの、もし良かったら連絡先、教えていただけませんか?」
「は?」
「今度、お礼に何かご馳走させて下さい」


こういうことを言われるのはきっと初めてではないのだろう。これほどの美形だもん、モテないはずがない。彼は一瞬キョトンとして、そしてすぐにニヤリと口角を釣り上げるとポケットから取り出したメモ用紙にボールペンでなにかを書きはじめる。そして「ん」とそのメモ用紙を渡してくれて、そこにはアルファベットと数字が綺麗に並んでいた。


「死にかけたのに逆ナンなんて、見かけによらず随分と大胆なんだね?葵チャン」


駄目だ。彼はきっと白馬に乗る王子様なんかじゃない。絶対に好きになってはいけないタイプだ。そう頭では理解しているのに、私はそっとそのメモ用紙を受け取ると、素早く自分の携帯に彼のメールアドレスを登録した。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動は、なかなか収まってくれそうにない。





「……っ、希…っ!」

ーーえ、誰?!悟くんはゴム越しに射精すると、ずるんとモノを抜いてゴムを縛ってぽいっとゴミ箱に捨てる。別の女の名前を呼んでイった彼は、何食わぬ顔で衣服を身につけはじめて思わずその腕をギュッと掴んだ。

「なに」

めんどくさそうにされても今はとにかく“希”が誰なのか気になってしょうがないのだ。怯んではいけない。

「悟くん。希って、彼女?」
「は?何?お前に関係あんの?」

オ゛ッエ〜!まじそういうのめんどくせーから
と今度は直接口に出されて掴んだ手を乱暴に振り払われる。

私と悟くんは所詮、セフレ関係だ。
ほとんど遊びに行くこともなく、ご飯を一緒に食べることもなく、たまに会えばセックスするだけの、彼にとって私はただの性欲処理のような存在なのだろう。そんな性欲処理の相手に踏み入った質問をされたらそりゃあめんどくさいに決まってる。そう自分に言い聞かせて、手をギュッと握りしめた。

「…ごめん。関係ないよね。なんでもない、気にしないで」

俯きながらそう言えば、しーんと部屋が静まり返る。その空気に耐えきれず恐る恐る顔を上げれば、悟くんが「ん」と携帯の画面を私の顔の前に突き出した。

「この子が希。かわいいでしょ」

えーっと…モデルさん?思わず口に出してしまうほど、画面に映っている希ちゃんはそれはもう綺麗な顔をしていた。
色素の薄い金色の髪の毛に、パッチリとした大きな目。鼻筋が通った小さな鼻に、形の良い薄桃色の唇。そしてそれらが全て絶妙なバランスでその小さすぎる顔に収まっていて、正直こんなに美人な女の子を私は今まで一度も見たことがない。
悟くんは私の言葉を聞いた瞬間、面白そうにケラケラ笑いながら突き出していた携帯の画面を閉じた。

「ちげーよ。希は俺の同級生」
「どっ!?えっ、ほんとに?!」
「まあ希ほど美人だとモデルだと思われても仕方ねーけど」
「…悟くんのクラスは顔面偏差値で決まるの?」
「は?なわけねーだろ」

お前なに言ってんの?みたいな顔で見られたけど私は絶対におかしなことは言っていない。
だって悟くんだって芸能人並み…いやそれ以上の美貌の持ち主なのに同じ顔面レベルの美形な女の子が同じクラスにいるとかそんなのあり得るの?ていうか。

「悟くん、この子と付き合ってるの?」

あ、しまったと思ったけどもう遅い。口に出してしまった言葉はもう二度と消すことができないのだ。
ああまた鬱陶しがられるな…なんて思ったけど、悟くんは予想外に真剣な眼差しで私を見据える。

「付き合ってはいないけど、俺は希のことが好きだよ」

ズキリと、胸に鋭い刃物が突き刺さったような痛みが走る。こんなに優しい顔をした悟くんを見るのは初めてで、そんな表情をさせる希ちゃんが心底羨ましいと思った。

「…そっかぁ。いつか、希ちゃんと付き合えるといいね」

そんなこと言いたくないのに。思ってもいないのに。悟くんの彼女になるのは、私だけがいいのに。
悟くんは「うん」とだけ言ってふわりと綺麗に微笑んで、私の心は真っ黒な感情で覆い潰されていく。


“希”なんて、大っ嫌い。











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五清が付き合う少し前のお話。