希は傑のことが大好きだ。
俺と付き合う前まではしょっちゅう2人で抱き合って寝てたし何かあると俺より傑のことを頼ってたし傑が女と歩いてるのを見るとめちゃくちゃ嫉妬してた。
希は硝子への愛情もやばいけど、硝子はまあ同性だからそこは安心してる。
いや一応先に言っておくが、俺は別に傑と希がどうこうなることを不安に思っているわけではない。
傑と希が兄妹みたいな関係性であることは知っているし、傑がいくら女に不誠実だからと言って親友の女に手を出すほどゲスな奴ではないことくらい俺が1番分かってる。
だけど。
時より、俺と傑どっちが大事?なんて、そんな子供じみた感情が俺の心を支配する時があるんだ。
「は?傑と2人で映画?」
「うん。傑と今ハマってるあの漫画、実写化されたみたいだから今週の日曜に2人で観に行くの」
「ふーん」
「もしかして、あんま興味ない?」
「俺も誘えよ」
「だって悟、あの漫画全然ハマらなかったから」
「どうせ俺は希と趣味合いませんよ〜」
「え〜?私は悟と趣味合うと思うけどなあ。悟がオススメしてくれる映画やゲーム、いつもめちゃくちゃ面白いし」
「……あっそ」
「照れてるの?かわいい」
クスクス笑いながら頬にキスをされて、単純な俺はさっきまでのイライラした気持ちがスーッと消えていくのが分かる。まじでチョロすぎるだろ、俺。最強が笑えるわ。
ーーなんて思っていたのに。
「見てこれ〜かわいいでしょ?このストラップ、傑とお揃いなの」
消えたはずのイライラが一気に再燃する。
本当に嬉しそうにそう言って傑と一緒に携帯を見せてくる希の顔を今は正直見たくない。
硝子は“へえかわいいじゃん”なんて興味なさげに言っていて、聞いてもないのに希は傑が買ってくれたんだよってニコニコしながら硝子に教えている。傑はそんな希を優しい目で見つめていて、そんな2人の甘い雰囲気に胸の奥底からどろりとした黒い感情が湧き出てくる。
「良かったじゃん。“デート”楽しかったみたいで」
「悟?」
「デートじゃないよ。希の恋人は悟なんだから」
「なにお前。希と夏油が2人で映画観に行ったの妬いてんの?」
硝子が呆れた顔をしながらそう言ってくる。図星、だけど。そのままその感情を認めるなんて俺のプライドが許さなくて、「別に」とぶっきらぼうに答えながら希を見据える。
「俺なんかより傑といた方がいいんじゃないの」
「えっ…」
希の瞳が揺れる。傑と硝子は驚いたように目を丸くしているけど、一度火がついた怒りはなかなか収まってくれそうにない。
「お前は俺と傑どっちが大事なわけ」
「さとる、」
「ごめん。もういいわ」
ガタンと席を立って教室を後にする。
もしかしたら希が追ってくるかもってほんの少し期待したけど、あいつは追ってこなかった。
なんで追いかけてこないんだよ。もしかして今頃傑に慰められてる?泣いてる希を抱きしめて頭を撫でている傑が安易に想像ができて、イライラして壁を思いっきり蹴って頭をガシガシ掻き上げる。
そうか、俺は。
俺ばっかりが希のことを好きなような気がして、寂しいんだ。
傑より俺を見て欲しい。俺のことで頭がいっぱいになってほしい。俺があいつを想う気持ちと同じくらい、俺のことを愛してほしい。
ちゃんと、気持ちを伝えよう。
確か今日希は単独任務があったから、夜にあいつの部屋に行ってきちんと話をしよう。
任務内容は複数の3級呪霊の討伐だったはずだから、希ならきっとすぐに終わらせて帰ってくるだろう。
そんなことを考えていたせいだろう。
夜蛾センの酷く焦ったような顔で発する言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかってしまった。
「希が任務で大怪我を負った」
ーーは?嘘だろ。だって相手は複数とは言え3級だろ?
「今は硝子の反転術式を受けて医務室で休んでる。意識もしっかりしているし傷もほぼ完治したが、念のため丸一日医務室で休んでもらうことにした。悟も時間がある時に顔出してやってくれ。お前ら仲良しだろ?希も悟がきたら喜ぶ……っておい!」
気付いたら俺は全力疾走して医務室に向かっていた。その間も頭の中は希のことばかりで、心臓がバクバク煩いくらい脈打って、嫌な汗が頬を伝う。
どうして3級の雑魚なんかに希が大怪我を負わされた?途中で特級が現れたのか?だとしたら夜蛾センが説明してくるだろう。だとしたら、なんで。
あっという間に医務室に着いてドアを勢いよく開けると、驚いた顔をしている希と硝子がいた。
すぐに硝子はため息を吐いて、眉間にしわを寄せながら俺をギロリと睨みつける。
「五条。お前なあ」
「硝子、いいから。悟は悪くないから、」
「でも」
「いいの」
今の2人の会話から希が大怪我を負ったのに俺が関わっていることが推測できた。硝子は納得がいかないような顔をしながら「ヤニ吸ってくる」と言って医務室を後にする。
俺はすぐに希に駆け寄って、近くにあるパイプ椅子に座る。
「どうして3級相手に怪我なんて負った」
責めるような言い方になってしまったのをすぐに後悔した。本当は責めるつもりなんてないのに。希はその綺麗な瞳からぽろぽろ涙を零して、俺は堪らず希を抱きしめる。
「悟に、嫌われたかと思って」
「は、」
「任務中も、悟に振られたらどうしようって、ずっと考えてて…そしたら、術式発動するのが遅れて、」
「……」
「ごめんなさい。でも…私、本当に悟のこと、愛してるの」
「……」
「私を捨てないで…お願い…。悟に嫌われたら、私、生きていけないの…っ」
「捨てるわけないだろ。俺がどれだけお前のこと愛してると思ってんだよ。バカにすんなよ」
そう言って希に触れるだけのキスをすると、希は俺の制服の裾をキュッと握ってくる。
「だって…だって悟、私は傑と一緒にいた方がいいって」
「…希は、俺より傑の方が大事なのかと思って」
「え?」
「不安に思った。ごめん」
素直に謝ると、希が顔をぐしゃりと歪めて、次の瞬間子供みたいにわんわん泣きはじめた。
そんな希の姿を見るのは初めてのことで、柄にもなく焦って、狼狽えてしまう。
「わたしっ…わたし…さとるのこと、大好きなのにぃ…っ」
「ちょっ、希、分かったからそんな泣くなって。な?」
「いつも、いっつもさとるのことばっか考えてるもんっ…すぐると2人で映画観に行った時も、さとるのことばっかり話してたもん…」
「え?まじで?」
「うん…。さとるのことが、誰よりも大好き…愛してるの…わたしのこと、信用して?」
「うん。ごめんね。希。本当にごめん」
「ん…わたしも、ごめんなさい…」
「怪我、痛かっただろ?」
「うん…でも、さとるに嫌われたかと思ったら、心の方がもっと痛かった…」
そう言ってぽろぽろ涙を零す希に胸がキュウッて締め付けられる。いやこんなの、か、かわいすぎるだろ…。ていうか。
「…俺って意外と愛されてる?」
「意外とじゃない!ばかっ!」
キッと瞳に涙の膜を張ったまま睨みつけてくる希を、離してやんないとばかりにきつく抱きしめる。
希が俺に嫌われたかと思って3級の雑魚相手に大怪我を負うのも、こうやって子供みたいにわんわん泣きじゃくるのも、全部全部、俺のことを愛しているから。そう思うと、胸の靄がスーッと晴れていって、あとは幸せな気持ちでいっぱいになる。
「さとるのことを、誰よりも愛してる」
うん。俺も希のこと、誰よりも愛してる。
▽
「いいのか?あれ」
「ん〜?仲良しなのは良いことだろ?」
硝子が指差す先には何やら楽しげに話している希と傑の姿があって。俺が笑いながらそう言うと硝子は怪訝そうな顔で見てくる。
「はあ?あんだけ夏油に嫉妬してたくせに何言ってんの」
「いや〜俺ってば希にちょーーー愛されてるみたいだし?傑なんかに対抗心燃やすのもアホらしいと思って」
「ふーん」
硝子はゴミを見るような目で俺を見ると、興味が失せたのか携帯をカコカコいじりはじめた。俺は楽しそうに笑っている希をジーっと見つめる。うん。今日も俺の彼女はめちゃくちゃ綺麗で可愛い。
「あの日さあ」
「ん?」
「お前が夏油に嫉妬して教室から出て行った後、希ずっと泣いてて、私と夏油が五条はただ嫉妬してるだけだって何回言っても聞く耳持たなくて、大変だったんだよ」
「え」
「希のことが大事なら、あいつのこと泣かせんなよ」
「言われなくても、そうするよ」
そう言って再び希の方を見ると、今度はばっちりと視線が合わさって、すぐに満面の笑みで俺に駆け寄ってくる希がかわいすぎて両手を広げる。
「おいで。希」
「さとる〜〜っ♡」
ぎゅうううっと腕の中に閉じ込めると、傑に「バカップル」って呆れた顔をされて、硝子には「いちゃつくなら外でやれ」って言われたけど、2人ともどことなく嬉しそうな顔に見えるのは、俺の気のせいではないはず。
「希〜〜愛してる」
「私もさとる愛してる」
俺の彼女は世界一かわいい。
羨ましいって?絶対誰にもやらねーからな!
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