私の名前は桜咲リリカ。
黒髪パッツンのサラサラロングヘアーにぱっちり二重のくりくりなお目目。鼻筋の通った高い鼻にふっくらとしているセクシーな唇。
芸能人もびっくりな小さなお顔のとびっきりの美少女だ。

そして都内でも有名な進学校に通っていて、彼氏は同じ学校でイケメンの一つ上の先輩。まさに絵に描いたような勝ち組の人生。
今だって、ほら。
学校終わりに彼氏とお洒落なカフェに寄ってみたら、周りの視線は一斉に私達に向けられる。
そりゃあこんなに美男美女の学生カップルがいたら思わず見惚れてしまうのも分かるから仕方がないといえば仕方がないのだけれども。


彼氏と他愛のない会話を楽しみながらこのカフェ一番の人気メニューであるパンケーキを頬張っていたら、急に店内がざわつきはじめた。
一体何事かと騒ぎの中心に視線を向ければ、そこには今まで見たことのないような桁違いの美形とイケメンの男の子達がいた。
1人は透き通るような白髪で黒のサングラスをしている美しい男の子。サングラスの隙間から覗く碧い瞳がキラキラ輝いていてまるで少女漫画に出てくる王子様みたいだと思った。
もう1人は黒髪のお団子に結んでいる男の子。顔立ちが明らかな造形美で切れ長の目が色気たっぷりの涼やかな雰囲気のイケメンだ。
それに加えて2人とも身長が高くてまるでモデルみたいな出で立ちにカフェの女性客だけでなく店員までもが色めき立っている。


「すっげーイケメンだな…2人共モデルさんかな?」


彼氏が2人を見つめながらそう聞いてくるけど、私の瞳にはもう彼氏ではなくあの桁違いの美しい男の子達しか映らなかった。
ほしい。ほしい。ほしい。ほしい。ほしい。ほしい。この際どっちでも良い。あの美しい男の子がほしい!!!
こんなにも気持ちが昂ぶるのは産まれて初めてのことで、心臓がバクバク煩いくらい脈打って、全身が沸騰したかのように熱い。


幸運なことに、美しい男の子達は私と彼の座る席のすぐ隣の席に座って、自然と口角が釣り上がる。
やっぱりこれは運命に違いない。
だって、どの物語も美しいお姫様の隣には美しい王子様っていうのがセオリーでしょ?

周りからイケメンと言われていたはずの彼氏がすっかり霞んで見える。彼氏の声が何も届かない。パンケーキの味もしない。私はもう、すっかり彼らの虜になっていた。


ーーーそんな時だった。


店内がまたざわつきはじめて、その中心から颯爽と現れた女。その女を見た瞬間、思わず目を見開く。忘れるわけがない。憎らしくて、大っ嫌いでたまらない、薄気味悪いオンナ。
中学3年生の時に同じクラスだったーー清宮希。


「悟。傑。ごめんね、待った〜?」


あろうことか清宮希は私の運命の相手の席にさも当然かのように座って、あの時のことが走馬灯のように蘇る。



忘れもしない。あの日。あの時。
私の彼氏だった男はこの女に誑かされて、私を振って清宮希に告白したのだ。あっという間にその噂が学校中に広まって、私がどれだけ惨めったらしい思いをしたか。しかもこの女はあろうことか、私の学校1のイケメンと呼ばれていた彼氏に告白された時「私、ブサイクには興味ないの」と言って振ってみせたのだ。それがどれだけ私のプライドを傷つけたか、この女は知らないのだろう。

そもそも私は、初めからこの女のことが気に食わなかった。たまにしか学校に来ないくせに、清宮が登校してきた日にはどこから聞きつけたのか他のクラスの男子や後輩達が清宮目的に教室に来てはわーわー騒いでいたるところから携帯で写真を撮ってはそれを売ったり買ったりと、それはもうトップアイドルのような扱いだった。噂だと他校にもファンクラブができていたらしい。


なんで。なんであいつばっかり。


あいつさえいなければ、私が1番目立っていたのに。ちやほやされていたのに。あいつのせいで。あいつさえ消えれば。
彼氏を誑かされてから、私はいつしかそんなことばかりを思うようになっていた。
そして、あの日。久しぶりに学校に登校してきたあいつを呼び出して、クラスの女子全員で体育館の倉庫でリンチをした。あいつはどれだけ殴られても蹴られても抵抗一つしないで、口から血を吐き出しながら周りを見渡すと恐ろしいくらいの無表情でこう言ったのだ。


「かわいそうなひとたち」


は?かわいそう?かわいそうなのは、今リンチされてるテメェだろうが!!!
頭に血が上った私は思いっきり清宮希の顔面を拳でぶん殴った。それなのにあいつはやっぱり人形みたいな無表情で、それがなんだかとてつもない恐怖を感じさせた。リンチをした1週間後、あいつは傷だらけの顔を隠しもせずまるであの日のことがなかったかのように普通に教室に入ってきて、私を含めたクラスの女子全員ヤツを化け物のような目で見た。薄気味悪いヤツ。そんな女を、忘れるわけが、忘れられるわけがない。
















「めちゃくちゃ綺麗な人…」


うっとりとする声に意識が引き戻されバッと彼氏の方を見ると、彼氏は清宮希のことを蕩けた顔で見つめていて、そんな彼氏を白髪の王子様のような彼が眉間にシワを寄せながら睨んでいた。


まただ。またあのオンナばかりが、注目される。


カッと頭に血が上って、勢いよくガタンと椅子から立ち上がる。その音に隣の席の3人が此方に視線を向けると、あの女とバッチリ視線が合わさって、その瞬間、驚いたように大きく目が見開かれる。
ふっ、ざまあみろ。私を見て動揺しろ。そんなことを思っていたのに、あの女はすぐに何食わぬ顔に戻って、イケメン達と談笑しはじめた。


ーーは?


あいつ、今確実に私と目が合ったよな?
それなのに、私ばかりが、あいつを。
中学の時だって、いつも嫉妬しているのは、私の方だった。
それがどうしようもないくらい腹ただしくて、そして、憎らしい。


「清宮」


名前を呼ぶと、清宮はゆっくりと視線を此方に向けて、そしてニッコリと微笑んだ。


「久しぶり。桜咲さん」


キュッと心臓が鷲掴みされたような、そんな感覚だった。


「希。知り合いかい?」
「んー?中学の時の同級生」
「へえ。そうなんだ」


黒髪のイケメンな男の子は朗らかな微笑みを浮かべながら此方を見ていて、白髪の美形な男の子は探るような視線を向けてきている。
2人が、私を、見ている!
その事実だけで胸が熱くなって、苦しくなる。
彼氏が「この女の子と知り合いなの?」としつこく聞いてくるけど、今はそんなことどうでもいい。


「清宮。その人達、友達?」


念のため彼氏かどうか確認するためにそう尋ねれば、清宮はこてんと首を傾げて、心底不思議そうに言葉を発した。


「それ、桜咲さんに関係ある?」


ブワッと、顔中が熱くなる。
くつくつと白髪の美形の男の子が小馬鹿にするように笑っていて、黒髪のイケメンな男の子は笑いを堪えているのか肩が震えている。


このクソアマ!!!!バカにしやがって!!!!
彼氏を置き去りにして逃げるようにして店を去る。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!
激しい嫉妬心が私の心を覆い尽くす。
絶対あの美しい男の子を私の虜にしてやる。そしてあの女にこう言ってやる!


「かわいそうなひと」


男を奪われてバカにした私にこう言われたら、あの女は一体どういう顔をするのかしら?

あの女の絶望する顔を思い浮かべて、私は薄ら笑みを浮かべた。