「ねぇ、愛してるゲームって知ってる?」
携帯をカコカコ弄っていた希が、突然顔を上げてそんなことを言い始めた。
愛してるゲーム?なんだそれ。聞いたことのないゲーム名に首を傾げると、五条があ〜!と声を上げながら手を勢いよく上げた。
「俺!俺知ってる!愛してるゲーム!」
「はいはい悟ちょっと落ち着こうね〜」
「なんだよ傑。お前まさか知らねーの?」
「知らないけど」
「私も知らないんだけど。何そのアイシテルゲーム?」
「え、マジで?硝子も知らねーの?2人とも遅れてるぅ」
「「うっっっざ」」
思わず夏油と顔を顰めながらそう言うと、五条はヘラヘラ笑いながら希の肩の上に顔を乗っけて頬にキスをした。
「今流行ってるんだって〜。愛してるゲーム」
「さっきからそんなの見てたの?俺のこと放置して?」
「みんなでやろうよ!大人数?でもできるみたいだし!」
「え、希ちゃんシカト?」
「つか4人って大人数なの?」
「さあ」
「そもそもアイシテルゲームってなに」
「希〜希〜」
ウザいくらい希にベタベタする五条の頭をよしよし撫でながら希はその愛してるゲームのルールを説明してくれる。
要するに参加者が円座になって順に隣の人に「愛してる」と伝えていってこのやりとりの中で笑ったり照れたりしたら負けという至ってシンプルかつクソ恥ずかしいゲームだった。
「いいんじゃない。面白そうだし」
何故か夏油は乗り気だし。そう言えばこいつは一見大人びて見えるけどなかなかの悪ノリ好きな奴だったことをすっかり忘れてた。まあ私も自習のプリント終わったからやることなくて暇だしやってあげてもいいけど。
「はーい!俺希の隣がいいでーす!」
「悟。そこは公平にじゃんけんだろう」
「は?優等生は黙ってろよ」
「あ゛?」
「はーいじゃーんけーん」
ぽんっ!という希の言葉と同時にみんな一斉に手をだす。さっきまで一触即発の雰囲気だったのにちゃっかりじゃんけんに参加してる五条笑えるんだけど。
夏油 家入
清宮 五条
じゃんけんで決まった席順に、五条はぶーぶー文句を言っていたが(希に愛してるって言われたかったらしい)希に「悟に愛してるって言われるの嬉しいな♡」とキスをされたらすっかり気分が良くなっていた。単純かよ。
「じゃあ傑から硝子に愛してるって言えば良いんだよね?」
「そうなるね。もう言っていい?」
「いつでもどーぞ」
「硝子男前だな」
「硝子。愛してるよ」
「きも」
「え、酷くない?」
「「…っ!!」」
いくらゲームだとは言えキメ顔で夏油にそう言われてぞわぞわと鳥肌が立つ。
これは想像以上にキモい。キモすぎる。
希と五条は何がツボに入ったのか分からないが肩を震わせて笑ってるし。
「ねえこれってOKかNOか言わなきゃだめなんじゃないの?」
「NO」
「ははは、硝子即答じゃん!ウケる」
「ねえなんで私が振られてる感じになってるの?流石に凹むよ?」
「ぶふっ…しょーこぉ、傑凹んじゃうんだって。OKしてあげて♡」
「仕方ねーな。ハイOK」
「すっっっげー投げやり」
「なんか心に傷ができた…」
「傑くん意外と繊細だからね。よしよし」
希によしよしされて満更でもなさそうな夏油を無視して五条に視線を向ける。
「愛してる」
「えっ」
「すっごくさらっと言ったね」
「ねえいきなりすぎない?こんなイケメンに愛してるって言うんだよ?ちょっとは緊張しないの?」
「今更クズに緊張なんかしない」
「えー…硝子ちゃん辛辣…」
「で、返事は」
「OK…です」
「……っ」
「ちょっさっきから希がゲラなんだけど」
「コレ希が一番初めに脱落するやつなんじゃない」
「私は…!脱落!しない!」
「笑いすぎて涙がでてるよ」
ほら、とハンカチで目尻を拭ってあげている夏油と頭をよしよし撫でている五条。
前から散々言ってるけどお前達が希をお姫様扱いするせいでこいつのわがままに拍車がかかってるんだからな。もっと自覚しろ。
「希」
「なあに?悟」
「世界で一番愛してる」
「ありがとう♡でも1回じゃ足りない」
「愛してるよ」
「もっと言って」
「希。愛してる」
「私も愛してるよ」
「……〜〜っ!」
希が微笑んでそう言った瞬間、一気に五条の顔が赤面した。え、嘘だろ。激弱じゃん。
お前最強なんじゃないの?瞬殺だよ。マジウケる。
「悟、顔真っ赤だよ」
「照れたから負けだね」
「はいたいさーん」
「ちょっ待て待て待て!俺は照れてない!」
「いやその顔で言われても…」
「説得力なさすぎ」
「往生際が悪い男はモテないよ、悟」
「あ゛?ヤリチンは黙ってろよ」
「表出ろ、悟」
「おいクズ共。やり合うならせめてゲームが終わってからにしろ」
はー…とため息を吐くと、希は悟の手をギュッと握り「照れてる悟も最高にかわいかったよ♡」と顔を覗き込んだ。五条はすぐにふにゃりと顔を緩めると一気に気持ち悪いくらいのデレデレ顔になって思わずドン引きする。いやこいつ…希に弱すぎだろ…。
「傑。いつも私のわがままを聞いてくれてありがとう。いつも支えてくれてありがとう。いつもくだらない話や遊びに付き合ってくれてありがとう。もっともっと伝えたいこといーっぱいあるけど、そしたらきっと1日じゃ足らなくなるから…。傑のこと、本当に心から大好き。愛してるよ」
「…………………希」
「はいはいはいはい待った待ったマジで待ったおい傑!お前希の手を握るな!!!つか顔真っ赤だな?!照れてんな??はい傑くんの負けー!とっとと退場しろ退場!!」
「私は照れてない!」
「え、なにこれデジャヴ?」
近くに座っていた椅子からバンっと立ち上がって夏油に勢いよく掴みかかる五条と明らかに照れているのに照れていないと言い張る夏油。
何ここ小学校?それとも幼稚園だった?こいつら天才だのなんだの持てはやされてるけど中身ただのクソガキじゃん。つかガキよりガキだよ。
結局照れてたよ、と希と私が五条に加勢したことで夏油は渋々退場した。マジでなんなのお前。
そして残ったのは希と私。
いや最強2人激弱すぎだろ。
「硝子。誰よりも愛してるよ」
無駄に良すぎる顔をふんだんに利用して上目遣いでそう言ってきた希の後頭部に手を回して強引に唇を奪う。
「んっ…」
「私の方が愛してる」
瞬間、可哀想なくらい顔が真っ赤に染まった希に勝ったと心の中でガッツポーズをとった。
「しょっ…しょーこぉ。こんなの、ずるい!ずるいよぉ…」
「キスしちゃだめなんてルールにはなかっただろ?」
「ないけど!私の心臓がもたないよぉ…!」
プンプンと頬を膨らませて睨んでくる希は正直言ってかなり可愛いと思う。
そういえばクズ共がやけに静かだなと思い視線を向けてギョッとした。
「尊い…」
「美人同士のキスってえっちいよな…」
えー…なんで鼻血出してんの?マジでキモいんだけど…
ていうか、最強を瞬殺した希を瞬殺する私って、実は最強なんじゃない?
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