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「瑞希〜そろそろ起きないと遅刻すっぞ〜」

開けっ放しのドアの向こうで、江口さんが呼んでる。声がする。ううん、と寝返りを打ってからスマホに手を伸ばす。

今日何時入りだっけ、と思ってハッとする。


昨日は千秋楽で、ダブルアンコールはスタンディングオーベーションで。命を燃やしたこの一ヶ月と少し、いや、半年前前編の稽古が始まったあの時から燃やし続けたこの命は、星となって次に継がれて。

舞台袖で座長の染谷さんとありがとうと抱き合って。

白又くんが「姉貴、めっちゃ良かったっす!!」って感極まって抱きついてきて、もうカンパニーみんなで、命を賭して駆け抜けた興奮をもみくちゃになって分かち合った。


明け方まで打ち上げ、二次会、三次会と飲み歩いて、気づいたら今に至る。



そうだ、もう終わったんだ。




「飲み過ぎさんは味噌汁ね」

「え、」

「期待すんなよ、インスタントだから」



目をこすりながらリビングに出ると、珍しく食卓に朝ごはんが並んでいた。
湯気が出る味噌汁と、白米と、卵。
健康的な食事。


「ありがとうございます」

「さっさと風呂入って支度しないと収録間に合わないぞ」



余裕そうな江口さんはもう支度を終えたのか、向かいに座ってコーラを飲みながら台本の下読みをしてた。

台本。

今日は何の収録だっけ。

次クールのアニメだっけ。
ゲームの追加ボイスだっけ。

二日酔いでグラグラする脳みそを無理やり仕事に切り替える。

こうやって余韻に浸る間も無く、次から次へと。
ありがたいことなんだけど、それが時々むなしく感じてしまう。


「今日からまた、本業復帰だな」
「うん」
「おかえり、お疲れさま」


江口さんはきっとなんでもお見通しなんだ。
大きな手がポンポンと頭に触れる。

この世界に引っ張り留めてくれる優しい手。


「ただいま、がんばるね」


まだまだ、がんばらないと。