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瑞希ちゃんはいい子だ。
いい子なんて軽薄な単語に収めたくないくらい、いい子。
そういってたのは誰だったっけ。きっと飲みの席で一緒になった先輩の誰かだったと思うけど、どんな飲み会でも毎度のように誰かがそう言ってるし、結局のところみんなそう思ってるってことだろう。
そんな彼女を意識しだしたのはいつからだっけ。それもなんとなくしか覚えてない。最初に出会ったときからかわいいと有名で興味を持っていたのは事実だ。気づいたら目で追うようになっていた。30手前、ここにきて立派な片想い。しかも相手は、自分の恋心より仕事を優先した真面目ちゃんときた。勘弁してくれって自嘲しながら、今日も自然と彼女とのトーク画面を無意味にスクロールさせている。
「江口くん、どうしたの?」
向かいに座っていた神谷さんが、美味しそうなパンを片手に眉をひそめる。神谷さん。神谷さん?!
「ワッ、お疲れさまです」
「お疲れさま。すんごい難しい顔してどうしたの。」
「アッ、いや、、」
「久保瑞希でしょ〜どうせ」
神谷さんは自分から話を振ってきたくせに既に興味なさそうにパンをかじっている。なんでもお見通しらしい。認めざるを得ないがそんなにわかりやすいのだろうか。慌てて頬を叩く。ヤバイ。
「ワーカーホリックらしいね、あの子。最近仕事めっちゃ増やしてるって」
「そうなんですか?」
「さあ?小野くんがめちゃくちゃ心配してたってだけだけど」
これ瑞希ちゃん載ってたよ、と神谷さんの鞄からでてきた雑誌をパラパラめくるとモデル顔負けのアンニュイな表情を浮かべる#伊織#ちゃんと目があった。
「まあ、たしかに最近、よくイベントとかメディアにでますよね」
「昔は苦手だから〜って嫌がってたのにねえ」
まるで孫を見守るような口ぶりの神谷さんに同意する。
"実現したいことを全部叶えてからじゃないと、恋愛なんてできないと思うんですよ。わたしひとつのことしか出来ない単純な人間なので。だからまずは夢を叶えます。"
仕事や演じるキャラクターに対するインタビューは、彼女らしくまっすぐで真面目なものだった。
息苦しくないのだろうか。
「小野くん情報だけど、瑞希ちゃん、電球変えられないらしいよ。」
「電球?え、なんの」
「家の。独り暮らし長いくせにどうやって生きてるのって感じだよね。」
一瞬、合法的に彼女の家に上がり込める策が頭によぎったが、思い切り頭を振った。それでもゆるむ頬に、神谷さんが呆れたようにため息をついた。