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ふと壁にかかる時計に目をやると、ちょうど日付が変わる瞬間を見てしまった。

ピリッとした空気の中ディレクターが他のスタッフさんに対してなにか指示を出しているのを聞き流しながら、今頃何をしているのだろうなんて、彼女に思いを馳せる。

「ごめん、帰れなさそう」そうメッセージを送ったのは1時間以上前。すぐに既読がついて送られてきたパンダのスタンプはOKサインで全く感情が読めなかった。今クールの収録が佳境ってこともあって少しスクロールするだけでも似たようなやりとりを何度もしてる。

深夜に延びる収録に不満があるんじゃない。
でも今日だけは違う。
大切な人の1番大切な日に「誕生日おめでとう」そのひとことすら送ってやれない。本当は有名店のケーキを買って、予約したプレゼントを受け取って早々に帰る予定だったのに。
早く終わってほしいと心が焦る。
しかも、もともとはオフの予定だった当日もスケジュール変更で1日仕事。実質あと数時間しか一緒にいられない。

仕事が入った、と謝った時の瑞希の「気にしてないふり」をした表情が今でも忘れられない。
こういう時彼女は役者だなって、悲しくなった。瑞希だって女の子だ。彼女は何も言わなかったが期待してたに決まってる。さりげなく誕生日当日を避けてスケジューリングしてたり、俺が仕事だっていったあと穴を埋めるように仕事をいれてごまかしてたこと、全部気づいてたのに。

なにもしてあげられないことに思わず深いため息をつく。

きっと隣の良平さんは事情を察してるんだろう。机の下で俺の足を思いっきり踏んできた。目で「集中しろ」って訴えてる。

「あれ、お嬢とっくに帰ったけどいいの」

合流した杉田さんが悪気もなくそう俺に声をかけてくる。どうやら前の現場で瑞希と一緒だったらしい。

「飲み会もばっさり断って颯爽と帰ったからてっきり江口が待ってるのかと思ったわ」
「俺もそのつもりだったんです」
「ドンマイしか言えない」

きっとあの子のことだから誕生日を祝ってくれる人はたくさんいる。
今から暇?って声かけたら飲みにだって行けちゃうだろう。俺が帰れないってLINEしたあと、誰かと飲みに行った可能性だって十分ありえるのだ。

周りに恵まれることはいいことだ。
瑞希が寂しくなければそれでいい。
ひとりぼっちで誕生日を迎えるなんてことしなくていい。

うそだ。

俺が1番に祝いたかったのに。

今日は俺が1番であってほしいのに。


余裕ぶってるくせに肝心な時に何もできないんだ。
自己嫌悪に浸りながら深いため息をついたら、案の定良平さんがめっちゃ睨んできたので小さくなって台本に意識を戻した