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江口さんは花江くんの後を継いでエジソンのパーソナリティに就任したかと思いきや、音楽活動と声優のお仕事を並行しながら北へ南へ。毎週のように演じたアイドルのリハやライブがあったりイベントがあったり。それこそ、SNSで江口さんの名前を見ない週末はないくらい。
わたしはというと、アーティストデビューをしたり、出演した映画の宣伝に引っ張り出されたり、フリースタイルバトルを極めたり(これも仕事)。少し前にこっそりと2.5次元ミュージカルのアンバサダーに就任したこともあってか、宣伝や密着番組のお仕事をいただくことも徐々に増えてきていて、まあお互いそれなりに忙しい日々を送っていた。

同じ家に住んでるはずなのにしばらく会っていないことを明かすと、西山くんは呆れたようにこれがすれ違い生活、家庭崩壊前夜だと言い切った。
別に今に始まったことなんかじゃないので気にしてはいないが、この生活が長く続いて関係がなにか変わったかと問われるとなにも変わってないな、とも思う。離れるわけでもなく、かといって極端に近くわけでもなく。


久々のデートにどうですか、とスタッフさんからいただいたを高級レストランの食事券を手元に悩むこと数日。

せっかくだし、なかなかふらっと行けるところでもないので興味はあるのだが、江口さんはどうだろうか。忙しいかなあ。休みたいよなあ。
お互いのスケジュールを記入しているリビングのカレンダーを見ても、果たして江口さんは休みあるのだろうかと迷う。

LINEでひとつメッセージを送ってしまえば早いのに、ここ数日顔を合わせていないせいでこんなにも連絡しづらくなってしまう。江口さんが自分がどんな状況でも即答でOKしてくれるのもわかってるから余計に。

うなだれるわたしに、西山くんはもはや呆れ気味だ。

「でもさ、いつまで江口さんって呼ぶつもりなの?」

西山くんが目の前のポテチを豪快に開ける。

「普段2人の時はなんて呼ぶの?」
「江口さん、のままだね。下の名前でよんだことないかも」
「それは江口さんがかわいそうだよ」
「何も言われないから、つい、、」
「甘え、それは甘えだからな。なんでそこは甘えるくせにご飯行きましょうのひとつも言えないの?」
「それとこれとは別じゃん。。」

我が物顔でリビングのソファーを占領する西山くんは、ほんわかしてるようでグサグサと核心をついてくる。その容赦なさはきっと心配してくれてるからだと勝手に解釈してる。江口さん関係のご意見番はもっぱら西山くんの役割だ。

「2人の時間が必要だよ。2人とも仕事をしなきゃって気持ちで絡まってるだけ。もっと自分の気持ちを大事にするべき。本当はもっと一緒にいたいくせに」
「そうなのかなあ」
「付き合いたてのカップルじゃないくせに今更こんなことでくよくよしない!」
「はい。。」

レストランの口コミをググればググるほど、こんな些細なお誘いもできない自分にため息が出てくる。

現実逃避、といって手を伸ばした台本が恋愛ものの朗読劇で余計に深いため息をついたら西山くんに思い切りクッションを投げ付けられた。