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「梅原くんだ。どうしたの?」
「どうしたの、はこっちの台詞でしょ」

ウイスキーが入ったグラスを片手に、「仕事じゃない話していい?」と久保は俺の隣に座った。カランと氷が揺れた。さっきまでむこうの輪で楽しそうに笑っていたのに、別人みたいにしっとりとグラスに口をつける横顔から目を逸らす。

「こないだの泥酔したあれ、日付変わった瞬間すら覚えてないし誕生日も二日酔いでしんどかった、まじでしんどかった」
「それより大事なことあるっしょ、報告」
「江口さん仕組んだの壮馬くんじゃなくって梅原くんでしょ?なにもないよ。期待した?」
「ワンナイトも?」
「ワンナイトも。強いて言うなら、電球変えてもらっただけ」
「罰ゲームじゃん」

彼女は頑なに俺のことを梅原くんと呼ぶ。どんなに周りが梅ちゃんと呼ぼうと、だ。プライベートと仕事で呼び方を変える人もいるが、彼女はそういうわけでもない。なぜなのか、と問えば特に気にしてないし後輩はあだ名で呼ぶよ、と笑われた。
それが余計に、本心が読めない高嶺の花感を際立たせてるのだけど、きっとそれは彼女なりの線引きなのだ。

ただ例外が1人だけ。俺が知ってる中では1人だけ、昔から久保に渾名で呼ばれる人がいる。正確には、いた。
彼女はわかりやすいと思う。まっすぐだから。そして不器用なんだと思う。

「全然わかんないんだよね。自分の気持ちがさ」
「お前がなにをウダウダしてんのがわかんないや。もうわかってるくせにさ。」

グラスを空にした彼女はマスターを呼んでウイスキーベースのカクテルのおすすめを聞き出している。
そんなにウイスキー好きだっけ、そこまで言って、はたと気づく。この前の収録でウイスキーをよく飲むと言っていたのは江口さんだ。

「わたし、梅原くんといるの好きだな」

なにも話さなくていいから、と付け加えられた。わかってるよ、そんなこと。

「俺も好きだよ、久保といるの」