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芯の強い女性を演じさせたらこいつの右に出るものはいない。最近本当にそう思う。今回の彼女の役も自ら武器を持ち戦に加担する役所であるが、その鮮やかな身のこなしは圧巻だ。関係者からも感嘆の声が聞こえる。ずっと一緒にやってきた身としては、やっと世間に見つかってくれたか、という気持ち。
もっと早くみつかってくれれば、もしかしたら彼女が一人違う道を選ぶ必要もなかったのかもしれない。ときどきそんな邪念が脳をよぎる。

そんなこと誰も喜ばないのに。



「そういえば、染谷さんこれあげます」

差し出された袋にはムーミンのお皿が入っていた。あの、某チキン屋のコラボのやつ。

「こんなに食ったの?」
「染谷さんにあげなきゃっておもって」

終演後の清々しい疲労が身体を襲う。
もうあと2公演かあ、なんて、役のメイクのまま、眠そうにあくびをする彼女。ムーミンのグッズを押し付けてくるところも楽屋に入った途端眼光が消えるのも昔から何一つ変わらない。こいつは何も変わらないのだ。

でも、後輩たちと楽しそうに話している姿を見て、こんな顔して笑うんだって。これが先輩としての瑞希か。なんて。知ってるよ、瑞希が舞台畑の後輩たちになぜかすごい人気なの。どこいっても名前出てくるから、共演してたっけ?ってこっちが不安になるくらい。

変わってほしくないと、願ってるだけなのかもしれない。

「あとさあ」
「なんだい」
「わたくし、彼氏ができましたのです」

お弁当に箸をつけながらさも当然のように呟く。危うく流してしまいそうだった。

マジ?と聞き返せばマジと返ってくる。
誰?と聞けば、声優の先輩とまでしか答えてくれなかった。誰だろうと予想してみたけどこいつの顔の広さを想像してやめた。おめでとう、といった自分はどんな顔をしていただろうか。

「公表すんの?」
「わかんない。まだ事務所に言えてないからまだ秘密でお願いしますね」

「ひろきくんのことは、もういいの」

いうと思った、そう眉を下げる。わかってる。とっくに彼女の中で蹴りがついてることも。

「忘れるためでもあるのかもしれない」

自分でもよくわかってないんだ。でも、染谷さんにはちゃんと言おうと思ってたよ。もちろんひろきくんにも。


もうあいつは脆くないよ。大丈夫。
そう微笑んだひろきくんのことを思い出した。

「お前はいっつも、一歩踏み出してから全部教えてくれるのな」
「だって、踏み出せなかったらカッコ悪いじゃないですか」
「そうそう、お前はそういうやつだよ」

かわらないなあ。心の中でそう自嘲する。

「瑞希、お前は確かに大人になったよ。でもさ、これだけは約束して。過去を否定しないで。俺は今のお前が間違ってるなんて微塵も思ってないし、今までお前に関わってきたことは全部プラスだったと思ってる。お前自身が過去を否定したら、お前が今まで積み重ねてきたものも、俺たち一緒に作ってきたものも否定することになる。そのお前をずっと愛してくれてた拡樹くんのこと、否定しないで」

思わず口走ってしまった。

泣いて、泣いていいから。もし過ぎた時間がお前のことをこんなに背伸びさせているんだったら、せめて俺たちの前では本音でいてほしい。俺たち役者でしょ?初めて出会ったのは舞台の上。俺たちは舞台の上で、感情を目一杯さらけ出しながら一緒にやってきたんじゃん。



「やめてくださいよ、どんな顔していいかわかんなくなっちゃう」

瑞希は今にも泣きそうな顔をして笑った。ずいぶん綺麗に笑うんだな。あの時からずいぶん時間が経ったことを悟った。