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台所から物音がして恐る恐るドアを開けた。
「おそよーさん」
「 あさぬまさん、?」
「電話に出ないから様子見にきた」
「サンタさんかと思った、、」
「寝ぼけてんの?」
突然の来訪だった。
飄々と何食わぬ顔で人の台所で料理をしてる浅沼さんを横目に加湿器のスイッチを入れてソファーに置きっ放しだったカーディガンを羽織る。少し冷え込むなあ。もそもそと化粧道具に手を伸ばす。
スマホを手に取ると浅沼さんとマネージャーと何件か着信が入ったあとに、江口さんからのメッセージが入っていた。首を傾げながら確認する。
「昨日何してたの?」
「仕事して、北村くんたちの舞台観に行って、そのあとちょっとごはんして、帰ってきて寝おちてました」
「ああ、刀剣乱舞行ったの?マネージャーが体調悪そうなのに病院に行ってくれないって気にしてたけど。死んでたらどうしようって。普通に元気じゃん。」
「ただの貧血って言ってるのに全然信じてくれないんですよ」
まあ、健康的な食事くらい摂りなさい、と味噌汁を作ってくれる浅沼さんはお母さんみたいだ。味噌汁なんて久しぶりだ。
マネージャーに「心配かけてごめんなさい。たくさん寝て元気になったので心置き無くクリスマスデート楽しんでくださいね」とかわいいスタンプ付きでメッセージを送った。
クリスマスかあ。今日はわたしも自分のクリスマスを楽しむんだ。ちょっぴりワクワクした。
豊永さんのライブと、柿原さんのお祝いに行く。その前に差し入れとプレゼントを買いに行こうっていう江口さんからのメッセージ。
仕事で昨日も一昨日も会ってるけど、せっかくだしちょっとだけ、いつもと違う服着ようかな、とか、考える。普段の代わり映えのないクローゼットの中身に、世間の浮かれ具合にのっておけばよかったと後悔する。それを察してか、「この前伊藤マサミが選んだワンピース着れば」と助け船を出してくれる浅沼さん。ちょっとなあ、と思って結局無難なニットと普段履かないスカートを引っ張り出す。イヤリングも、つけよう。
「江口拓也とは?よくやってる?俺はどっちかっていうとお前の拗らせが心配なんだけど」
大丈夫ですよ、と言おうとしたら、ごはんが炊き上がる音と同時にインターホンが鳴った。
モニターに映ったのは、江口さんだった。慌てて解錠ボタンを押す。
「すみません、さっきメッセージ見たばっかりで」
「いや、いいんだけど、え?」
玄関先で明らかに男物のスニーカーを見て戸惑う江口さんの反応に、ハッとする。
「よっ、江口」
部屋から出てきた浅沼さんに呆然とする江口さん。なんだこの修羅場みたいな
「あ、えーっと」
「こいつが連絡無視すっから事務所命令で様子見にきただけ。まあ、もうその必要もないしこれやるよ」
シャリン。引越した当初から浅沼さんに渡していた、わたしの部屋の合鍵。
上京してきた頃からわたしの面倒を見てくれる浅沼さんに万が一のために合鍵を渡すのはなんだかんだ当然の習慣だった。
受け取った江口さんはまだびっくりした顔をしていた。
「あの、なんか、ちゃんと手土産も心の準備もなくあれなんすけど、両親にご挨拶してる気分」
「伊織の両親怖いぞ〜」
そう笑った浅沼さんはいつの間にかダウンを羽織って靴を履いていた。
帰るんですか、と聞けば、用済んだから帰る、と返された。あと、江口と朝ごはん食えよ、と。そういうとこ、ちゃっかりしてるんだ。
「こうみえても10年以上世話焼いてきてる娘みたいなもんでね。よろしく頼んだよ」
ポンっと江口さんの肩を叩いて颯爽と去っていく浅沼さんの後ろ姿を見送った。