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「花江くん、花江くん」

顔を上げるといつのまにか瑞希ちゃんが正面に座っていた。

「うわびっくりした。おつかれさま。」
「は〜おわった!花江くんもおつかれ。ちなみに少なくともあと3つくらい現場一緒だけどね、今週」
「そうなの」
「らしいよ。壮馬くんに笑われた」
「なんで」
「昨日飲んだときに話題になって」
「えー呼んでよ、ずるいなあ」

台本をパラパラとめくりながら器用にパピコを口にしている。
もう一本はどうしたんだろうとおもいつつ、自分も彼女と同じ台本をめくりながら彼女を盗み見る。彼女が右手に持っているのは昨日とは違う、どこかのノベルティでもらったボールペンだった。

「ねえ、これ終わったらヒマ?」
「うーん、ヒマっちゃあヒマ。11時からラジオあるけど」
「牛丼食べ行きたい」
「ああいいね、牛丼」

やったーと抑揚のない声がかえってくる。
さっき向こうで女性陣がこのあと近くのレストランのレディースセットを食べに行くとかなんとかって言ってたけど、お前はいいんかい。さっきまで仲よさそうに話してたじゃん。女性キャストが多い現場に彼女がいるのも珍しいんだけど、他の人から誘われてるのが全く想像つかない。でも何も気にしてなさそう。僕の考えすぎか。なんだかんだいっていつも一緒にご飯に行くのが新人時代からの慣れというかなんというか。さも当然のように彼女はこうして僕をご飯に誘うんだ。

空になったパピコの容器をペコペコと膨らまして遊ぶ彼女は、いつもマイペースなのだ。おかげでまったく本心が読めない。

「そうだ。前の現場で山下くんと同じだったんだけど、なんとかってゲームの話を花江くんとしたいっていってたよ」
「大事なとこが抜けてるね〜伝言として致命的だね〜」
「やましただいきくん」
「そこじゃない」

ケラケラ笑う彼女。
全く距離は感じない。でも前みたいになっちゃんとは呼んでくれなくなった。
彼女が切ない顔して演じるシーンに心臓がギュッとする感覚を感じるようになった。
「おめでとう、本当におめでとう」そう目を潤ませながら笑った顔がどうしても胸の奥にひっかかる。

それでもやっぱりいつものようにご機嫌をとろうとしてしまうんだ。大切な親友として。