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飛鳥、と呟いて噛み付くように唇に触れる。珍しく早急で、少しだけ歯が当たるようなそれにくらりとした。恥じらいから顔を逸らそうとしたら両頬を掴まれて動かせなくなってしまう。薄く目を開くとぼんやり見えた壮馬くんがスッ、と目を細めたのが無性に照れくさくて目を閉じた。
押し倒されて、足の間に壮馬くんの足があって逃げられない状況が混乱を増幅させる。
「いじわる、」
いや意地悪なの私じゃないと思い、たい。
なぜこのようなことになったかと言うと、遡ること10分ほど前。
仕事も終わって2人で何をする訳でもなく、ぼうっとお酒を飲みながらドラマを見ているときだった。
「あ、この俳優さん会ったことあるよ」
「ん、どれ?」
「この人。アニメとか好きみたいでファンって言ってくれた」
素直に嬉しかったと告げると、そう?となんだか味気ない返事をされた。
このとき、ここでやめておけばよかったとあとで後悔する。出来心で普段ぜったいに言わないようなことを言わなければ、あんな状況になったりはしなかった、はず。
「かっこよかったよ。さすが俳優さん。ちょっとときめいた」
なんて、と言う前にぱしりと腕を取られた。驚いてテレビから壮馬くんの方に視線を切り替えると、これまた驚くほど真顔だった。あ、これやばいかなと思ったときには手遅れで。
そもそも、そもそもだ。正直、ときめいてない。さらに失礼承知で言うとそのときまで彼の存在自体よくわからなかった。
ただちょっと、壮馬くんをからかってみようと思ってしまった哀れな茜飛鳥の戯れ言なのだ。弁解できる雰囲気でもなくなってしまって、口端が引き攣った。
「別に、誰に会おうと俺に口出しする権利はないよ」
「っ、」
「でも俺といるときに他の男とのそういう話は聞きたくない」
そして冒頭に至る。
ごめんね。本当はちょっと嫉妬してくれたらいいな程度にしか思ってなかったんだよ。それがこんなことになるなんて。
謝罪の意を込めて壮馬くんの首に腕を回すとキスをやめて顔を上げた。目を開けるとそこには見たこともないような、ぎらぎらとした男くさい顔をしている壮馬くんがいて動揺してしまう。(かっ…こいい、な)
「っ…ごめん。うそ。わたし壮馬くんにしかときめかない」
「……うん」
「会ったのも、ライブ来てくれたってだけで私以外にもいっぱい人いたから」
「……わかってるよ。飛鳥が興味ないことくらい」
擦り寄るように頬を寄せて「飛鳥ちゃんは俺しか眼中にないもんね」とちょっと余裕を取り戻したのかいつものように笑った。間違ってないけど言い方ね。(否定できないのがまた……)
「駄目だよ。こんなことされたらどうにかなっちゃうから」
「壮馬くんが?」
「飛鳥が」
「……以後気をつけます」
「ふふ。そうしてください」
最重要事項として肝に銘じておこう。許してもらえたのかわからないけど、雰囲気は穏やかになったし、大丈夫だよね。未だに心臓どきどきしてるけど、それはこんなふうに床に押し倒されたことはないからだと思う。どういうわけか背徳感半端じゃない。いや付き合ってるけど。
「……そ、そうまくん?」
「ん?」
「あ、の…そろそろどいてほしいなあって…」
「えー、なんで?」
「もういい、んだよね…?」
「ふふ、だーめ。俺怒ってたんだから最後まで付き合って?」
前言撤回、全然許してもらえてなかったよ!