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こんな夜中に出かけるのなんて飲み会以来で、プライベートなものでは本当に久しぶりだった。隣に座る親友は何処か思いつめたような顔をしている。
表情の変化が乏しい中でも、さらに険しい感じ。上手く説明できないけど、まあ、些細な変化ってこと。
壮馬くんがいるから、とちゃんと弁えてるらしく、夜中に、しかも深夜とも取れる時間帯に外出をしない飛鳥だけど今日は直々にその壮馬くんからのご依頼で飛鳥を連れ出した。
ちょっと話を聞いてあげてほしい、と。
(俺、でいいのか……?)
別に話を聞くぐらいはいい。今も昔もお互い色々相談したりしてきた。でも壮馬くんに言われるほどのことって、なんだろう。考えてみても思いつかない。
適当に車を走らせながら信号で止まる。その隙に、ミラー越しに飛鳥を見ると窓から景色を見ているようだった。
「雄馬はさ、」
「うん?」
「私と話したり、こうやって2人で遊ぶの、嫌?」
なんで、と思ったより低い声が出た。
おもむろに口を開いたかと思ったら何気ない会話のように、感情のわからない声色で紡がれた言葉に困惑する。急にどうしたんだよ。そんなこと言うの、初めてじゃん。
未だに窓の外を眺めていて飛鳥の表情は伺えなかった。
「壮馬くんと付き合ってるのに男の人と仲良いのは変だ、って」
「……誰かにそう言われたの」
「あー……話してるの聞こえちゃっただけ」
とりあえずちゃんと聞かなければと思い、パーキングエリアに止めて向き直る。
ああそうか。俺のことだったから壮馬くんはこっちにパスしてきたのか。納得。たしかにこれは、俺と飛鳥の問題かもしれない。
男女間の友情というものはとても難しくて繊細だと思う部分は、ある。一見、そんなもの皆無に見える俺たちだって昔はもっとよそよそしかった。ここまでの仲になれたのは運と相性、としか言いようがない。
「彼氏いるのに、じゃあ内田雄馬はなんなんだって」
「……」
「雄馬とも付き合ってるんじゃないかって、言われるのは慣れてるけど、でもなんか、今回のはちがくて」
震える声を隠すようにわざとワントーン上げてるみたいだった。ちょっとしたことで動じない肝が据わった男らしい女の子だけど、やっぱり根底にある部分は普通の女の子と変わらないのだ。
俺が言われる分はいい。わかってるから。俺から仕掛けたことだから。
昔は、もしも俺のせいで飛鳥が傷つくならいつでも引こうと思ってた。それが普通だと決めつけていた。けど今は、引けるわけないほど大切になってしまった。ていうか何なら一緒にぶん殴りたいくらいだし。(って言うのは冗談で、)
「だめ、なのかな。友達なのに、周りはそうは思わない」
飛鳥、と声をかけて手を握ると、ゆっくりと俺の方に顔を向けた。情けない顔してる。こんな茜飛鳥なんて見たことなかった。ここまで俺の存在が飛鳥のなかにあるとわかるのは、素直に嬉しいわけで。
「俺、飛鳥のこと女の子として見たことあるよ」
「え、」
「仲良くなる前ね。1週間くらい」
「……1週間は笑う」
ごめん、1週間は嘘。本当は1年くらい恋愛感情込みで可愛いなあって思ってた。だって茜飛鳥ってすげー魅力的なんだもん。
言い訳する訳では無いけど、これは壮馬くんには言ってある。というか、飛鳥関連のことはわりと壮馬くんに言ってあるんだ。(情報交換も兼ねて、ね)
「まあ、こういうふうにパッと言えちゃうくらいには俺の中では完結してることだから」
「う、うーん……なんかごめん?」
「恋愛通り越してもはや家族」
「……うん。私もそう思ってる」
恥ずかしげもなくこんなことが言えてしまうんだ。だってそこに何も疑問はないのだから。
「言いたいやつには言わせとけばいい。それでも嫌なら俺と殴りに行こう」
「うん……ありがとう。雄馬やっぱり最高だ」
「当たり前だろ。俺だぜ?」
「うわあ、それは微妙」
へらりと眉を下げて笑った飛鳥は、もういつも通りに戻っていて安心した。飛鳥が元気ないと俺まで元気なくなるわ。まじで。
後日、このことを姉さんに話すと「何そいつ本当に許せないんだけど誰?」と間違ってもファンに見せられないような顔で怒っていた。姉さん、特定はよくない。俺も我慢してるんだから。
「あとで電話しよ。飛鳥ー、会いたいよー」
「飛鳥さん今日イベントだからどうかなー」
「真礼ちゃんのためなら時間作るって言ってくれるはず」
「否定できないのがまた……」