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飛鳥と雄馬くんの関係に嫉妬しなくもない。そりゃあ、好きな女の子、というか彼女か。彼女が俺以外の男性と親しそうにしてるのは見ていてあまりいい気分ではない。あ、雄馬くんにはそこまでの感情は抱かなくなりました。付き合いたてくらいは、それなりに嫉妬もしてしまったのは少しだけ恥ずかしい思い出。

それでも俺のために可愛く着飾ってくれたり、朝ご飯や夕飯を作ってくれたりと努力してる飛鳥を見てるから俺も安心できる。何よりよく笑ってくれる。それだけで満たされた気持ちになる。男という生き物は斯くも単純で、わかりやすいものだった。


「飛鳥っ」

「わっ……びっくりした」


洗い物をしている飛鳥の背後から静かに近付いて、腹部に手を回すと驚いたようにぴくりと肩が揺れた。頬を寄せるとひんやりと柔らかい。


「壮馬くん後ろから抱きつくの好きだよね」

「飛鳥の背中が俺を呼んでいる」

「ふふ、なにそれ」


雄馬くんと話してきた?と聞くと一瞬止まって「うん」と明るい声が返ってくる。よかった、ちゃんと話せたんだね。

最初にスタッフが話しているのを聞いたのは俺だった。というか、俺の場合はやんわりとだけど直接言われた。余計なお世話とはこのことで、良好な関係が築けてるのに水を差すような真似はしないでほしい。

と、まあ、これはもちろん言わないんだけど。

そのときは「雄馬くんと飛鳥ちゃんはとても仲のいい友達ですよ」と笑って流した。それしか言えないし、ていうかそれが事実だから。


「……雄馬の気持ち、壮馬くんは、」

「ん?ああ、飛鳥のこと好きだったってやつ?知ってたよ」

「わー…まじかあ…」


私何も知らなすぎ、と落ち込む飛鳥に、あれはずいぶん前のことだったっけと思い出してみる。雄馬くんは酔った勢いで発言したことだった。飛鳥のこと好きだったよ、と。幸いなことにその場には俺と雄馬くんしかいなかったから誰にも聞かれることはなかったんだけど、そのときには俺は飛鳥と付き合っていたから正直血の気が引いた。

だって勝てないって思ったから。

雄馬くんが本気になれば飛鳥はきっと、雄馬くんを選んでいたんだろう。こんなの俺の妄想だけどネガティブに考えてしまうのは仕方ない。だって本当に、仲が良いのだから。

だけど雄馬くんは想うことを諦めて、それとは別の関係を求めた。俺は諦めきれなくて現在に至る。


「それを聞いても、そうなんだってくらいしか思えなくて」

「お、あっさりしてるね」

「冷たいかな……」

「んー……でも、雄馬くんもそれを望んでるんでしょ?」

「うん。"変によそよそしくされても気持ち悪いし俺飛鳥とまだまだ馬鹿やりたいからやめろよな"って」

「あはは!雄馬くんっぽい!」


雄馬くんは完全に吹っ切れてると言った。恋愛感情ではなく、家族に向けるようなものだと、あのへにゃりとした笑顔で言ってのけたのだ。その言葉に偽りはないのだろう。もし下心があるなら、たぶんわかるから。

いろんな意味で適わないな、と、むしろ笑ってしまった。


「……私、これからも雄馬と遊ぶ。たくさん話もするよ」

「うん」

「それでもいい?嫌じゃない?」

「いいよ。だって飛鳥の彼氏は俺でしょ?」

「は、はい。そうですね」

「ふふ。だから大丈夫。ぜったい最後には俺の隣に帰ってきてくれるって自信あるから」


きゅ、と水道を止めると手を拭いた飛鳥が振り向いて首に腕を回してくる。珍しい、飛鳥から触れてくるなんて、と驚いていたら控えめに微笑んでいる姿にさらに目を丸くした。(なんでちょっと泣きそうになってるの、)


「壮馬くんといると幸せばかり感じてしまうよ」

「……うん。そういうふうにしてるからね」

「私も何か恩返しできたらな、」

「もういっぱいもらってるよ。俺だって幸せだ」

「そうかなあ」

「そうだよ」


額同士を合わせて軽口を叩く。調子が戻ってきたような様子に安堵した。やっぱり飛鳥はこうでなくては。

ああ、でも、そうだな。やっぱり嫉妬はするし、羨ましくもある。


「だからたまにワガママ言うかもだけど、いいよね?」

「……壮馬くん、手の動きがあやしいよ」

「飛鳥さん」

「むりです」

「まだ何も言ってないのに〜」


こうやって触れるのは俺だけの特権だから、許されたい。飛鳥ももっとワガママ言ってもいいのに。

照れ屋な彼女じゃ無理か、と1人ニヤけていると軽く怒られてしまうのだった。


「壮馬くんわかりやすいよ」

「えー?」