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(モブ視点)
茜さんの右手の薬指をぐるっと一周する指輪は華奢ながらも存在を確かに主張する。今日は指輪つけてるんだ。いつもはだいたいチェーンに通して首から提げてるのに。
いつからかわからないけど、気付いたら茜さんばかり見ていた。自身も人見知りだと言っていたけど、それよりもだいぶ拗らせてる俺でも話しやすい人で、異性なのに不思議だったのが記憶に新しい。
一度だけ茜さんと視線が絡んだことがある。思わず逸らせなくなるほどのそれは大して興味を持った視線じゃなかったと思うのに、しっかりと此方を見据えていた。まるで魔性みたいで、迂闊に見るものじゃないと少しだけ、ほんの少しだけ後悔した。
いつもあれを見ている斉藤さんを羨ましくも畏怖の念すら感じる。というか、単純にすごい。
(……俺だって、)
俺だって、本当はもっと茜さんと話してみたいし、ワンチャンなんて思ってしまうクズさもある。まあ後者はほとんど冗談だけど。
茜さんにワンチャンなんて隙はどこにもない。周りが強すぎて狙うには無謀すぎる。
「あ、飛鳥さん指輪してる」
「うん。たまにつけないと可哀想だからね」
「彼氏さんが?」
「指輪が」
聞こえてきた会話につい聞き耳を立ててしまう。指輪が可哀想、と指を撫でる姿に思わずほうとため息が出そうになった。表情は相変わらずだけど、目は口ほどに物を言う。その視線だけは雄弁に語っていた。
俺は知っている。茜さんの首元の絆創膏が何を意味するのかを。見すぎるのもよくないなとつくづく思う。
憧れで止まれてるうちは幸いだ。俺は大丈夫。だってそこまで想いを拗らせてるわけじゃないから。
はあ、家に帰ったら愛猫を抱きしめてやろう。嫌がられるに決まってるけど、今はなんとなくそんな気分かもしれない。