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「ちょっと頼みごとがあるんだが、いいかい?ブチャラティ。」


ちょっとした調べものを終えて、いつも通りアジトに帰る途中。

普段快く挨拶をしてくる近所の老爺が、なにやら申し訳なさそうに話しかけてきた。


「ん?なんだ?」


今更『ギャングに頼みごとをするってのは、』なんて話はしない。ここいらの住民たちはそれをよくわかっているからだし、なにより今までにも組織的な力を伴うような大した頼みなんかされたことがないからだ。

ブローノ=ブチャラティ。パッショーネというギャングの一員であるこの男は、この地域では相当頼りにされていた。必要以上に金を巻き上げたり、暴力をふるったり、ギャングにはそういうような人間も多かったが彼は違った。20歳の若さでありながら一チームをまとめ上げていたし、何より正義感が強く優しかった。
真面目で、困った者には手を差し伸べる。そこらへんの警察なんかより何倍も信頼をされていた。


「私はほら、アパートの大家をやっているだろう?何か月前からかな、3か月か、それくらい前から一部屋だけ家賃を滞納していてね。」


『困っているんだよ。』眉を潜めていう老人。

ここらへんのアパートというと、パッショーネのシマ内ということになる。この老人は毎月きちんと場所代を収めていたし、その家の分は今まで自身で出していたという事だろうか。


「その部屋にいって住人に話しかけに行ったりしているんだがね、一向に返事がなくてだね。扉も開かなくて・・・。
本当だったら頼まないんだが、この前腰をやってしまって。これから行くのもきついし、何より人がいるのかも怪しい。」

「ウチの土地だし、そこにいって確かめてほしい…と、そういう事か?」


そう聞くと、老爺はまた申し訳なさそうに『すまないねえ。』と言うのだった。

ふむ、とブチャラティは一瞬考える。

もしこれで人が住んでいたら、組としてしめしがつかない。きちんと金を払っているこの老人にも迷惑であるし、このままでは命令としてこの案件が任されるのも時間の問題かもしれない。まだ段階的には早いかもしれないが、何か言われる危険性の方が少ない…か?


「わかった、案内してくれ。」


この頼みを、彼は受けることにした。口出しをされたら、普段差し入れなんかもくれたりする老人のためだ、そのお礼という形にしよう。