僕の片割れは、ゆ〜とぴあかつきのマスコットキャラみたいな存在だ。
年配者が多く利用する温泉旅館で、年若く素直な女の子は孫のように猫可愛がりされ続け、成人をとうに迎えても昔のままゆるキャラである。
僕の馬鹿真面目さや、真利姉ちゃんの姐御肌っぷりに挟まれても、妹――彼女が聞いたら『私がお姉ちゃん!』と頬を膨らませるだろう――は親譲りに明朗で暢気、楽観的。


「見てみて勇利! いっぱい見て貰えたよ、インスタにあげたお風呂上りのヴィクトルサン!」
「ぶーーーっ」


目の前に突きだされたスマホ画面に映る館内着のヴィクトルに、飲みかけていたお茶を噴き出してしまう。
ロシア美人に相応しい白い肌がほんのり赤く、プラチナブロンドはしっとりと濡れそぼち、ゆるく着崩してる所為で胸元が危うい、まさにお風呂上りのヴィクトル。
その両手には牛乳瓶と【はせつ】と書かれた団扇が握られているので、殺人的な色気が若干相殺されている……おそらく。
団扇がアイドルのライブとかでよく見かける様なデコレーション具合なんだけど、これ誰が作ったの!? まさか真利姉ちゃん?!


「私が団扇作ったんだよ〜。よく出来てるでしょ!」
「夢子の自作!?」
「勇利を応援する時用も作ったよ」
「ええぇ……」
「温泉 on ICEでいっぱい応援するから!
 ところでここの数字がどんどん増えてるんだけど、スマホ故障してないよね?」
「いや、それならアプリの異常を疑うべき……って、それ絶対ヴィクトル写真の所為だって!」
「マジか、ヴィクトルサンごいすー! これが炎上ってやつだね!」


テレビの影響も受けやすい夢子の奇妙な言動にツッコミたいけれど、まずは【ゆ〜とぴあかつき】名義のアカウントで軽率な行動をすることを注意しないと。
ただでさえヴィクトルが僕のコーチになる件で騒動が起きてるのに、こんの娘っ子は火に油を注ぐようなことをしてー!

頬をバチリと叩いて表情を引き締めた僕を、夢子は小首を傾げながら『そういえば』と会話を繋げる。
軽快な操作のあと、再びスマホ画面を突き出す。


「お風呂上りツーショットー!」
「〜〜〜ッッ」
「あれ、勇利。どうしたの」


先程のお風呂上りヴィクトルと共に、ピースをキメるお風呂上り夢子との2ショット写真を見た瞬間、机に思いっ切り額を沈めた。
見間違いでなければ、二人の距離間は殆どなく、夢子はヴィクトルに腰を抱かれていた。
軽率に加えて無防備な行動、アホ娘か!!


「夢子ー! さっきから何なんだよ、この写真! というか何でお風呂上りにヴィクトルを撮ったり、一緒に撮られることになるの!?」
「ヴィクトルサンが『OFUROで撮っちゃダメなんだ……』って、しょぼーんとしてたから、お風呂上りならセーフとか言っちゃった」
「言っちゃった、じゃなくて」
「ついでに客寄せのため、長谷津アピールしてくださいってお願いしてみた」
「変なところで抜け目ない……」


ほけほけと暢気な笑顔を浮かべながら、ヴィクトルを客寄せパンダにするだなんてえすかー子ばい……。

ただ、打算的な考えがあったにしても、この密着具合はどうかと思う。
ぶっちゃけると面白くない。
大切な片割れが出会って数日の男性と至近距離を許してること、尊敬する先輩選手が身内と猛スピードで打ち解けていること。
複雑な心境だけれど、包括すると我が家のゆるキャラがロックスターの毒牙にかからないか心配だ。


「真利姉ちゃん、見てみてー。すっごい反応貰ってるの!」
「おー、やったじゃん。また写真撮らせてってお願いしてみなよ、夢子のお願いならあのヴィクトルも聞くっしょ」
「分かった。これでお客さんうっはうはだね!」
「うっはうはだねぇ、夢子は偉いぞー」
「……。(ちゃんと、見とかないと……不安だなぁ)」


2016.10.21


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