◎第1話


ここはどこ、私は誰。
いや私は苗字名前だけど場所は分かんない。とりあえず、状況把握しなきゃ。人間って本当にピンチの時は冷静になるんだな。
胸元から鍵を取り出して掲げる。

「闇の力を秘めし鍵よ!真の姿を我の前に示せ。
契約のもと名前が命じる。封印解除(レリーズ)!!」

鍵を杖に変えてカードを取り出す。ほんと、カードと鍵があってよかった。これなかったら私死んでると思う。

「我が身を写せ'鏡(ミラー)'!」

………私、こんなに小さくなかったぞ。たしかに大きくなかったけどこれは小さすぎる。100pくらいしかないんじゃない?
現れた鏡(ミラー)は4歳頃の私の姿をしていて声のないまま焦りまくってた。ちっちゃい"鏡(ミラー)"可愛い。いや姿は私なんだけどね。

「'鏡(ミラー)'、ここどこだと思う?」

とりあえず聞いてみるが見覚えがないと首をふられた。見たところ公園だけど私の知ってる公園にはどことも当てはまらない。
そもそも私は家で寝ていたのだ。これは覚えてる。高校休みだったから'水(ウォーティ)'とかき氷作って'火(ファイアリー)'とテレビ見て眠くなったから寝た。んで気づいたらここにいたわけで。これ夢なのかな。でもカード使えるし、つねったら……痛い。あ、一緒につねらなくていいよ"鏡(ミラー)"。

「ねぇ、それきみのこせい?」

突然後ろから声がした。いつの間に人が来てたんだろ。振り返ると緑がかったモジャモジャの黒髪にこぼれそうなほど大きな目をキラキラさせた少年が立っていた。たぶん歳は今の私と変わらないくらいだろう。とても可愛らしい。

「個性?うーんまぁ個性っちゃ個性なのかな。」
「すごいねー!じぶんのぶんしんがつくれるこせいなの?」
「いや、これだけじゃないんだけどね。それに個性個性言ってるけど君の言ってる個性ってなにかな?」

私の知ってる個性はその人の持ち味?とかそんな感じの意味だったと思うんだけど、この子が言ってるのを聞くと私のこの能力の事を言ってるみたいに聞こえるんだけどな。

「こせいはこせいだよ?あのね!かっちゃんのこせいはね、てからばくはつがでるんだよ!」

おぉ、それはなんともデンジャラスな個性だな…。そんな人間いるの?どこの漫画だよ。まぁこの能力だって他人の事言えないけどさ。

「それにね!おーるまいとはすごいんだよ!いっぱいのひとをさいがいからすくってね!」
「ごめんね、ちょっと待ってくれるかな少年。私話についていけてないや。」

興奮気味に話す少年をとりあえず押さえる。私他に聞きたいことあるんだ。肩に手をおくとコトリと首をかしげる少年。可愛いなぁなんて思いながら口を開こうとすると後ろから凄い音と共に爆風が襲う。

「デェェェェク!!」
「かっちゃん!!」

この子がかっちゃんか!!マジで手爆発してるよ。何これ怖い。なんで少年普通なの。

「テメェどこいってんだよ!さっさとボールとってこいっつったろ!!」
「ご、ごめんねかっちゃん!でもね!このこがすごいこせいつかっててね!」
「あぁ?!おれがさいきょーにきまってんだろ!こんなちんちくりんにまけるわけねぇだろが!!」

とか言いつつ向かってこないでよ!思わず"盾(シールド)"で防御するとかっちゃん少年は驚いたのか体勢を崩してぶつかった。痛そう。ごめんね。 でも爆発なんか当たったら怪我するじゃん。自分大事。
やめて少年そんなキラキラした目で私を見ないで。かっちゃん少年は人殺せそうな目で睨まないで。

「ほ、ほらこんなとこで爆発したら危ないよ?良い子はボール探して遊んでおいで。」
「おれにさしずすんじゃねぇよ!」

まぁ、かっちゃん少年よく難しい言葉知ってらっしゃる。手負いの子ライオンってこんな感じかな。可愛いけど凶暴。画面越しに見るに限るね。

「指図じゃないよお願いだよ。私これからどうやって生きていくか考えないとなんだよ。寝るとこすらないんだよ死活問題なんだよ。」
「おうちないの?じゃあぼくのおうちおいでよ!」
「いやいやそう簡単にはいかないんだよ少年。お母さんお父さん困るでしょ。」
「でもひーろーはこまってるひとをたすけないとなんだよ。きみはこまってるんでしょ?じゃあたすけないとぼくはひーろーになれないもん!」

そうか少年はヒーローになりたいのか。立派な夢だと思うよ。ちっちゃい頃ってそんなもんだよね。私もかき氷屋さんになりたいって思ってたもん。冬はどうやって稼ぐつもりだったんだろ。

「むこせーのデクがヒーローなんかなれるわけねぇだろバァァァカ!!」
「そ、そんなことないもん!ぼくもおーるまいとみたいなひーろーになるんだもん!」

おぉう、私の存在忘れてない?まぁいいか、この間にささっと退散しよ……ってなんで私の腕掴んでるのかな少年。

「もうかっちゃんなんかしらない!いこう!」

そう言ってグイグイ引っ張っていく少年。後ろでかっちゃん少年ギャンギャン吠えてるけどいいのかい?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なんだかんだお邪魔して晩御飯までご馳走になってしまった。ほんと申し訳ない。ごはん、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした。
ごはんの時に互いに自己紹介をした。少年は緑谷出久というらしい。なるほど、だからかっちゃん少年はデクって呼んでたのか。あの子漢字読めたのか。すごいな。

「なっちゃんのこせいすごいね!かーどからなにかだすんだよね?」

名前の一文字目をとってなっちゃん。かっちゃんもどうやらそんな感じらしい。

「そうだね。私はこの19枚のカードと友達なんだ。カードにお願いすると力をかしてもらえるの。」

引子ママの話を聞いていればこの世界での"個性"とはその子に備わる異能力の事を指していて、それを生かしたヒーローという職ができて世間では活躍しているらしい。
ただ出久は何も異能力を持たないいわゆる無個性でこの世界ではその方が珍しいらしい。かっちゃん少年が言っていたのはこういう意味だったのか。

「ねぇ名前ちゃん。帰れなんて言わないからお家の場所だけでも教えてくれないかな?」

突然引子ママが私の前にしゃがんで目線を合わせて言った。
まぁそりゃそうか。こんな小さい子家出なんて心配するだろう。とりあえず自分の住所言って…………

「あれ、」
「どうしたの?」
「わかん、ない……?」

自分の住所が分からない。人生で何十回何百回書いたであろう住所が思い出せない。なんで、どうして……?

「じゃあお母さんの名前は分かるかな?兄弟は?」

お母さんの名前、兄弟、妹がいたのに名前どころか顔すら思い出せない。

「分からない、です……。何も思い出せない……!」

小さくなって精神まで幼くなっちゃったかな?涙が止まらない。どうしよう何も分からない……!やだ、なんで!

「なっちゃん!」

暖かい体温に包まれ少し落ち着く。目線を下げると出久が泣きながら抱きつきいていた。

「……なんで出久が泣くの?」
「だって、なっちゃん、がかなしい、からっ!」
「…………ごめんね。」
「なっちゃんんんんん!」

そのあと大泣きした私たちは疲れて寝てしまい、朝起きると私の洋服があった。
どうやら出久ママとパパが市役所や警察に問い合わせたり、色々したみたいだ。それでも私の手掛かりは見つからなかったらしい。
こんな君悪い子供なんてほっておけばいいのに、優しい出久ママとパパは私を引き取って養子縁組を組んでくれ、私は緑谷家の一員となった。

言い忘れてたけど、これは私、苗字名前が緑谷名前として生きていく物語である。なんちゃって。



しおりを挟む