◎第4話


君と出会ったあの日言ってくれた

『出久は私のヒーローだね』

それから僕は本物のヒーローになると決めたんだ


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公園でかっちゃんと遊んでいた僕は自分と全く同じ姿をした子と話している女の子を見つけた。分身の個性なのかな?あまり見ない個性に興奮して話しかけた。どうやらその子は"個性"というものがあまり分かっていないらしかった。"個性"が溢れるこの世の中で珍しい子もいるんだな、と不思議に思ったのをよく覚えている。なんだかんだあって一緒に帰ってご飯を食べた後、お母さんが家を聞いた時女の子は何も分からないと言いって泣き出してしまった。その時僕は幼いながらに何かを感じ取った。あぁ、この子は嘘をついていない。本当に分からないんだ。ならここにいればいい。お母さんを見ると同じ気持ちらしく頷いてくれた。結局二人して泣きつかれて寝てしまったが起きたときからなっちゃんは僕の家族になった。
僕はなっちゃんが家族になったのが嬉しくてずっとついて回っていた。まぁ無個性が分かって友達がいなかったのもあるけど。なっちゃんは無個性の僕を笑わずにヒーローになりたいと言えば応援してくれた。それならまず身体を強くしなきゃ!と武道を習いに行くように勧められ身体作りを始めた。相変わらずかっちゃんにいじめられはするけどその辺の子にはやり返さなくても受け身やかわすことができるようになって怪我も減った。

「やられたらやり返していいんだよ出久。」
「へへ、そしたら同じことの繰り返しだからさ。」
「出久は優しいなぁ。」

僕たちは中学生になった。


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「デクテメェェェェェェ!!」
「ひぃぃかっちゃん!!」

今日も不条理な怒りが僕を襲う。それは中学になっても変わらない。しかし変わったこともある。

「出久帰ろー!」
「あ、なっちゃん。」

一人だけ別のクラスになったなっちゃんは帰りにいつも迎えに来てくれる。自分の友達もいるだろうに帰りは必ず僕と帰ってくれる。

「勝己また出久いじめてんの?やめなさいって言ってるでしょ。」
「うるせぇブスは黙ってろ!」
「やめたら私だって黙りますぅ。」

ブスと言われたってなっちゃんは動じない。慣れてしまったのもあるだろうけどなっちゃんは僕らよりも少し大人だ。女の子の方が成長が早いっていうけどなっちゃんは他の子と比べても大人びていると思う。まぁそうでもないとかっちゃんとはやっていけないと思う。

「テメェも毎日毎日迎えにきてキモいんだよ!」
「私が出久と帰りたいだけだよ。他人に何言われたって別にいいよ。帰ろ出久。」

ギャンギャンほえているかっちゃんを置いてなっちゃんは僕の手をとって教室を出る。ちらりとふりかえるとかっちゃんがすごい目で睨んでいた。

「私勝己に嫌われてんのかなぁ。最近すごいつっかかられるんだけど。」
「そんなことないよ。」

違うんだよなっちゃん。かっちゃんは僕のことは嫌いかもしれないけどなっちゃんのことは大好きなんだよ。昔からそうなんだけどいまだ無自覚なんだよね。なんでもできる完全無欠の(あ、性格はクソだけど)かっちゃんもちゃんと普通の男の子だったんだなぁ、なんて。

「なっちゃん。」
「なーに?出久。」
「…………ううん、なんでもない。」

僕にとっては一番大切な女の子でかっちゃんとは違う好きだけど大好きだから罵詈雑言でしか愛情表現できないようなかっちゃんには簡単に渡せない。まだまだ僕はなっちゃんと一緒にいたいんだ。

だって僕はなっちゃんのヒーローだから!

無個性の僕だけどこれだけは負けられない。



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