◎それは偶然なんかじゃない

俺が南雲家に連れてこられてから一ヶ月がたった。
生活は酷く荒れ、ろくな食事にもありつけない毎日を必死に生きていた。
全ては再び千鶴に会うため。
俺は絶対この家を出る……!


第一話


「お前は誰だ。」

それは突然だった。
夜中扉が開いたかと思うと一人の少女が入ってきた。ここは離れだ。屋敷からは少し距離がある。迷い込んだのか?
俺は慌てて飛び起き、相手を睨んだ。
豪華絢爛な着物。
月明かりに煌めく長い白髪。
闇の中に怪しく光る金色の眼。
歳も俺と変わらないだろう。

「私が問うておるのだ、答えよ。」

間違いない。
この屋敷の主の娘、白鬼姫だ。

「俺は……薫。」
「そうか。では、薫。
おぬしはここで何をしておる。」
「別に、何もしてない。」

お前の下僕どもにこき使われてるんだよ。
そう言うと白鬼姫は俯いた。
暗くて表情は見えない。

「……う……だ。」

白鬼姫は小さく何か呟いた。

「何か言ったか?」
「薫よ、私は退屈しておるのだ。」

はっ?だからなんだよ。
俺には関係ないと睨むと白鬼姫は近寄って来て俺の両手を握った。

「この時間だけでいいのだ。私の話し相手になってはくれまいか?」

いきなりのことに焦りながらも威嚇することだけは忘れない。

「第一お前ここの姫だろ!話し相手なんか俺みたいな下のやつじゃなくても周りにいっぱいいるじゃないか!」

すると白鬼姫は悲痛に顔を歪めた。

「あれらは私の父に取り入りたいだけだ。私の機嫌ばかり気にして面白くない。あんなものよりも私は友達がほしいのだ。」

……ふーん。
姫様にもいろいろ悩みがあるんだな。

「…………俺はお前が嫌いだ。何の苦労もなく悠々と生きているお前が憎い。」
「…………。」

そんな泣きそうな顔すんなよ。
ふいに千鶴の顔が重なった。
調子狂うじゃないか。
あぁ、もうムカつくな……。

「……だがな、嫌いでもお前の話し相手になるくらいはしてやる。」
「ほんとうか!?」

とたんにぱっと笑顔になる。

「ほんとうにほんとうだな!嘘ついたら針千本飲ますぞ!」
「あぁもううるさいな。そんなに叫んだら屋敷のやつらが探しにくるぞ。」

白鬼姫は俺の手を握ったままぴょんぴょん跳び跳ねる。
なんだ、姫ったって俺と変わらないただの子供じゃないか。
いつもは気を張っているのか……。

「そろそろ帰った方がいいんじゃないか。」
「む?そうだな……。」

白鬼姫は名残惜しそうに俺の手を放さない。仕方なく片方の手を無理やり放し、頭を撫でてやる。よく千鶴にしてやったように。

「ほら、白鬼姫。心配しなくても明日も同じ時間にくれば会えるだろ。」
「……そうだな!」

白鬼姫はやっと手を放し笑顔になった。
ほんと、手のかかる……。
扉の外まで送ってやると手を振って別れた。

「あ、そうだ。」

数歩離れてから白鬼姫は振り返った。

「玻璃だ。」
「はぁ?」
「私の名は白鬼姫ではない、玻璃だ。覚えておいてくれ。」

じゃあまた明日。
そう言って白鬼姫、いや玻璃は屋敷へと走って行った。


これが俺と玻璃の出逢い。


それは偶然なんかじゃない、

必然の出逢いだったんだ。



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