◎お前がいたから
あれから毎日玻璃はやって来ては他愛もない話をしては笑う。
それが当たり前になっていた。
第二話
「薫、薫!今日はお前の話が聞きたい!」
「は?いっつも外の話が聞きたいって言っては俺に話させてるじゃないか。」
屋敷から出たことがない玻璃は外の世界が知りたいと俺にいろんな話をさせる。
その度に眼をキラキラ輝かせては外を見てみたいと駄々を捏ねては俺を困らせる。
「違う!お前自身の話が聞きたいのだ。
お前はここに来る前は何をしておったのだ?」
「特に何もしてなかったけど……。」
家族と暮らしていた東北の故郷を思い出す。
千鶴とよく遊んだあの場所も……。
「俺はここよりもっと寒い所に住んでいたんだ。冬になると雪がすごい降ったからよく妹と遊んだよ。」
「ほぅ、薫には妹がおったのか。」
「千鶴っていうんだ。妹といっても双子だったからどっちが上とかあんまり無かったけどね。」
俺にそっくりな千鶴。
泣き虫で可愛い俺の妹。
今頃どうしているだろうか。
「俺は千鶴を探す為にこの家を出る。今は無理だけどいつか必ず。」
名前は何も言わずにただ俺の顔を見つめていた。
少し哀しそうな顔で。
「薫は、ここからいなくなってしまうのか……?」
「玻璃?」
どうしたんだ、こいつ。
急にしおらしくなって……。
俯いた顔を覗き込むと顔を逸らされた。
「……私は、嫌だ。」
「何が。」
「薫のいない屋敷になんか、いたくない。」
ばっと顔を上げたかと思うと俺に抱きついてきた。
それから俺の肩に顔を押し付ける。
「私はもう独りは沢山だ。私だってこの屋敷から出たい。外の世界が見てみたい。」
「玻璃……。」
はぁ、俺の周りは何でこんな泣き虫ばかりなんだろう。
頭を撫でてやるとさらに抱きつく力を強めた。
「連れてってよ、薫……。」
「玻璃。」
「妹探しも手伝う。邪魔しないから……。」
「分かった、分かったから。」
するとぐすぐすと鼻をすすりながら玻璃は顔を上げた。
「ほんとう?絶対?」
「絶対だから。ほら泣き止め。そろそろ帰らなきゃ見つかるぞ。」
「……絶対だからな。」
玻璃はもう一度俺の服をぎゅっと掴んでから離れた。
「明日は妹の話をしてやるから。」
「うむ、ではまた明日な……。」
そう言って玻璃は屋敷へ帰って行った。
玻璃を見送ってから布団の上に寝転がる。
独りになると考える。
たとえ玻璃のように恵まれた環境に生まれても、幸せとは限らないんだな……。
「千鶴……。」
お前は今、幸せか?
そう呟いて眼を閉じた。
お前がいたから、
俺はこの辛い生活に耐えられた。
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