◎キスで目覚めるらしい?


「お嬢様、起きてください。」

うーん……あといちじかん…

「起きろ。」
「ぎぃやぁぁぁぁ!!!」

寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い!!!!!!

「何すんのよ京冶!!」

キッと睨みつけるが京冶は相変わらずの飄々とした顔でため息を吐く。

「何って起こしただけですよお嬢様。
早くしないと遅刻しますよ。
朝食はサンドイッチにしましたから早く着替えてきて車の中で食べてください。」
「分かったから早く出てって!!」

パリッとアイロンの当てられた制服を用意した京冶は私の顔を一瞥するとため息を吐いてから失礼します部屋を出ていった。













「ってのが今日の朝の出来事です。
主人の顔見てため息吐くとかあり得なくない?」

お昼休み京冶特製サンドイッチを食べながら(朝は車の中で寝てしまったのだ)友人に報告するとため息を吐かれた。
なに人の顔見てため息吐くの流行ってんの?

「赤葦くんこんなお嬢様の世話係させられて苦労するねぇ。」
「こんなってなによ。
てか京冶付けられて苦労してるの私だし!」

お父さんが雇い主だから私が采配を変えることはできないから我慢してるんだい。
よく知らないけど赤葦の家系は代々うちに仕えるらしい。
お父さんの秘書をしてるのも京冶のお父さんだし執事長は京冶のおじいちゃん。

「あんたほんとお嬢様っぽくないわー。
梟谷だって学校じゃない。もっとお嬢様学校に通うもんじゃないの?」
「私がごきげんようなんて言ったらどうする?」
「腹筋崩壊するね!」
「自分でも思うよ。」

あんなおほほほってお上品になんか笑えない。
自分でもお嬢様って柄じゃないのは分かってるしそれでいいと思ってる。

「でも赤葦くんが執事ってのはなんか納得だなー。」

そうなのだ。やつは何でもできる。
顔よし性格まぁよし勉強できる。おまけに強豪バレー部の副キャプテンというハイスペックなやつなのだ。
ファンも多いらしくバスケ部ではいつもキャーキャー言われている。
それだけでも十分なのに家に帰ってきてからは私の身の回りの世話をしているし朝も(方法は乱暴だが)起こしてくれる。


「でも私には辛辣だもん!」
「それはあんたがしっかりしてないからよ。
でも好きなんでしょ?」

それを言われると返す言葉もない。
そうなのだ私は絶賛京冶に恋する乙女なのだ。
だって昔から何かあったら必ず助けてくれる男の子がずっと近くにいたら好きになっちゃうでしょう?

「素直になればいいのにー。」
「だって認めたくないんだもん。
京冶にとって私はただの手のかかるお嬢様でしかないんだから一方的になんて悔しいじゃん。」

一方的だと分かってるから諦めているのだ。
どうせ京冶は結婚しても私に仕えてくれるだろう。
ならいいじゃないか。
好きな人でも恋人でも作ればいいじゃないか。
そのたびに私は泣くだろうけど。
所詮お嬢様と執事の恋なんて漫画の中だけの夢物語なのだから。

「泣かれるのは困りますね。」
「京冶!?」

いつの間に来てたんだ!?
友人は邪魔者は退散するわねーとそそくさ行ってしまった。
薄情者!!

「い、いつから聞いてたの…?」
「お嬢様の寝起きが悪いというところからですね。」

最初からじゃねぇか!!
あいつハメたな!?

「お嬢様。」
「あーさっきのは忘れて忘れて。嫌だったらお父さんに進言しとくから。」
「お嬢様。」
「だから京冶は今まで通りの業務をこなしてくれれば…」
「お嬢様!」

ガシッと肩を掴まれる。
顔を見られたくなくて下を向く。
こうしてしまえば背の高い京冶のは私のつむじしか見えないだろうどうだ。

「どうしてそう諦めてしまわれるのですか。」
「どうしてって…
それは京冶がよく分かってるんじゃない?
こんながさつでお嬢様らしくないお嬢様なんて嫌でしょ?
だから無理に仕えなくても…」
「俺は嫌々仕えた覚えてありません。」
「だって朝とかため息吐いて…。」
「それはお嬢様が起きないからです。
私は好きでもない人の世話なんかしませんよ。」

よかった、嫌われてなかった。
顔を上げてくださいと言われおそるおそる上げると思った以上に顔が近くで離れようとしたらむしろ近づいてきて、

「ご無礼をお許しください。」
「え?……っ!!」

視界が京冶でいっぱいになる。
こ、これは…っ?!!
ほんの一瞬の出来事だったがとても長く感じた。
京冶が離れてもあまりの事に動けなかった。

「お嬢様と執事の恋も夢物語ではありませんよ?」
「それって…」

してやったりと京冶には珍しい無邪気な顔で笑った。


「目は覚めましたか?お嬢様。」



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