◎狂気と鮮血の巡り逢い


僕は洛山高校に通うため、一足早く京都に着ていた。
そして片付けが粗方終わり、入学式前日の今日は近所の地理を把握するのも兼ねて散歩がてらスーパーへ買い物へ出掛けた。

そこからすでに歯車が狂いだしていたのだろう。

買い物を終え、帰路についていたところ、ふと気配を感じた。
それは誰も気にも止めないような極ありふれた小さな細い路地。
何故かその奥の誰かが自分を呼んでいる気がした。
そしてその人物に会わなければならない気がしたのだ。

ふらりと、本当に只の気まぐれでしかなかったのだが、その路地に足を踏み入れるとそこには

生命活動を止めた男だった物と真っ赤な鮮血の海とそれを無感動に見つめる刃物を持った少女。


「驚かないの?」

目の前に広がる光景に呆然としていると、突然少女が口を開いた。
顔を少女の方に向けると少女は何事も無かったかのようにきょとんとしていた。

「………それは僕の勝手だろう。」
「まぁ、そうなんだけど。
普通は叫んだり取り乱したりするもんじゃない、ここは。」

殺人現場なんだし、と少女は言った。

「殺人現場だからといって別に叫ぶ必要は無い。」
「あは、君は異常だよ。
でも良かった。叫ばれたりしたら面倒だから殺してたかもしれないし。」

声をあげていたら今頃僕もあの男(だった物)のようになっていたのか…。

「………それは良かった。
僕はまだ死にたくない。」
「そっか、良かったね。」

少女はまるで他人事のように淡々と話す。
確かに叫ばない僕も普通の人間ではないのかもしれない。
だが明らかにこの少女は異常だ。
人間を殺してこんなに冷静で居られるものなのだろうか。
それともこの少女は殺してないのだろうか。
下は血の海なのに対して少女は返り血ひとつ浴びていない。

「………この男は君が殺したのか?」
「そうだよ。」

このナイフでズバッとね。
そう少女はあっけらかんと言い放つ。

「なら君だって異常だろ?
人間を殺して平常でいられる方がおかしいだろう。
君は一体何なんだ。」

少女は少し目を見開いてからくすりと笑った。

「まぁ世間一般から言えばば私は異常だろうね。
でも私は殺人鬼だから元から異常なの。
異常である事が正常なんだよ。」
「殺人鬼…?」
「そう、殺人鬼。
私は生粋の殺人鬼だよ。」

殺人鬼。人を殺す鬼。
そのわけの分からない言葉が妙に胸にするりと入った。
何故かは分からない。
でも納得してしまったのだ。

とし兄かと思ったんだけどな、そう呟いて少女は僕に背を向けた。

「警察に言うならどうぞ。
じゃあ、またね。」
「僕はまた会いたくない。」
「あは、残念。でもまた会うよ。
あなたと私の縁はもう繋がってしまったんだから。」

じゃあね、鮮血の髪の人。
そう言って少女は持っている刃物を隠しもせず路地の奥へと消えて行った。

これが僕と彼女の出会いだった。


この世に偶然なんてない
(あるのは必然だけだ)



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