◎紅き鬼と赤き皇帝の日常


入学式から一週間後
現在12時45分洛山高校屋上にて

僕と少女、基零崎名前と昼ご飯を食べていた。

彼女と出会った次の日。
入学式を終えて教室へ向かうと昨日と同じ感覚が僕を襲った。
嫌な予感しかしない教室の扉を開けるとそこには自称殺人鬼が堂々と座っていた。

「ね、やっぱりまた会ったでしょ。」

彼女は僕の方を見てにっこりと笑った。

「でもまさか同じクラスになるとは思わなかったよ。」
「全くだ。
僕は再会さえあるとは思いたくなかったな。」
「私はまた君に会えて嬉しいよ。」

何と無くだが入学式の時にもあの感覚を感じていたからこの学校に居るのは分かっていた。
勘、でしか無いのだが。
でも同じクラスになるなんて、どうやら彼女との縁は完全に繋がってしまったらしい。

「私、零崎名前。
これからよろしくね。」

そう言って零崎は右手を差し出す。
僕はその右手を取らなかった。

「僕は赤司征十郎だ。
君とよろしくするつもりはない。」
「あは、酷いなぁ。
異常同士仲良くしようよ。」


一度繋がった縁はなかなか切れないらしい。
なんだかんだで今こうやって一緒に昼ご飯を食べるのが習慣になっているのもその縁のせいなのだろうか。
寧ろ殆ど一緒に学校生活を過ごしていたりする。
縁とは怖いものだ。

「まさか君とこうやって過ごすなんて夢にも思わなかったよ。」
「私は赤司くんと一緒に居れて楽しいよ。
ほら、私ってこんな外見だから友達出来なくって。」
「それは態と作らないようにしてるんだろう。」

彼女の今の外見は良く言えば賢そうな委員長を頼まれるタイプ。
つまりどこの教室にもいる只の根暗な女子だ。
まぁ、話してみればよく笑う普通の女子なのだが。
その辺の女子よりも親しみ易い。

「まぁね。だって私、殺人鬼だし。
他人と関わるのは面倒くさいしさ。」
「僕だって他人だろう?」
「赤司くんは他人じゃないよ。
なんていうか…出来れば家賊に迎えたいって感じかな。」

は……?
今何て言った。

「家賊?家族じゃなく家賊?」
「うん、家賊。
あ、でも家族と意味は一緒だよ。」

彼女は慌てて手を顔の前で振る。
どうやら世間一般の使い方ではないらしい。
だが意味が一緒ってことは…。

「結婚したいって意味じゃないよ。
零崎一賊に迎えたいってこと。」

言い換えになっていないがそこはスルーしよう。

「零崎?君の苗字は零崎だろう?」
「これは表社会で生きる為の仮の苗字。
私の真名は零崎名前。」

彼女はそう言い、そして話し出した。


この世には全てに対なる物が存在しているでしょ。
例えば善と悪。例えば男と女。右と左。黒と白。大人と子供。平和と戦争。
だからこの世界にも表と裏がある。
赤司くんみたいな一般人がいる表社会。
そして私達のような異常がいる裏社会。
その裏社会には【殺し名】っていうのがあってね、それぞれの集団が属してるの。
その中の一つが【殺人鬼零崎一賊】。
他の殺し名は家族とか一族で構成されてるんだけど私達零崎は本当の家族じゃない。
血で、繋がってるの。
あ、意味分かんないよね。
私達は血縁で繋がるって言うんだけど。
結局はこの人同じだ、って思ったら家族なんだよ。
でもね、だからこそ家賊の繋がりだけは誰にもどこの一族にも負けないよ。
他の殺し名は雇われて殺すけど零崎は家族の為にしか殺さない。
私達は家族が一番大事なの。
私だって家族の為ならこの学校全ての人間を殺すことだって喜んでやる。


「まぁ、そういった狂った一賊なわけですよ。
そして私はその狂った零崎一賊が末妹、零崎名前なのです。」

そう言って零崎は誇らし気に笑う。

「で、なんで僕がその零崎一賊に勧誘されてるんだ。
僕はまだ人を殺した事はないんだが。」
「まだってことは殺す予定があるの?
んー、まぁはっきりとした理由はだせないんだけど、

だって私達同類じゃない?」

その言葉にどきりとした。
確かに僕はさからう奴なら親でも殺せると思っている。
いや、確実に出来る。
そして最初に彼女と会った時から感じていた感覚にやっと名前がついた。

【同類】

そうなのかもしれない。
だが僕は人を殺してもいないのに殺人鬼扱いされるのはいただけない。

「……僕は、違う。」
「あは。でも最初会った時から感じてるでしょ?」

そう言われると僕は黙るしかない。
それは紛れもない事実だから。
零崎は楽しそうに笑う。
僕は全く楽しくない。

「零崎って気配で分かるんだって。
だからあの時私は兄だと思ったの。」
「確かに君と僕は同類かもしれない。
僕はあの時気配を感じてあの場に足を踏み入れた。
でも僕は君の家族にはならないよ。
僕にはちゃんと家族がいる。」

ありゃ残念、そう言って零崎は少ししゅんとした。
彼女は本当に僕が家族になると思って誘ったのだろうか。
これ以上の勧誘を受けない為にも僕は話を変えた。

「ところであの日、君は何故殺していたんだ?」

零崎はちょっとしかめっ面した。
あの男がそんなに嫌いだったのか?

「ちょっと前に京都で連続殺人事件があったでしょ?」

確か一年くらい前7人の死者を出し、社会を恐怖に落としいれた事件があった。
ある日ぱったりとなくなったのだが最近また同じような手口の殺人事件が起き、再来ではないかと世間を騒がしている。

「あれね、私の兄が犯人なんだ。」

兄、つまり殺人鬼零崎一賊の一人。
まさかそんな人物が京都に存在していたのか。
でもそれなら……
「じゃあ零崎は自分の兄を殺したのか?」
「そんなわけないじゃん!
最近のは兄じゃないなくてあの人が犯人。」

一緒にしないで、と少し怒ったように言った。
僕にとってはどっちも殺人犯には違いない。

「じゃあなんで殺したんだ?」
「………だってあいつ、とし兄を名乗ったから。」

只それだけで彼女の人を殺す理由になるらしい。
どうやら僕が思っているより零崎一賊の繋がりは甘くないようだ。

「言ったでしょ?
零崎一賊は家族の為に人を殺すって。
人を殺すのはあいつの勝手だけどとし兄を名乗るのは許さない。
あんな汚い殺し方でとし兄を名乗るなんか一京年早いわ。」

彼女は相当ご立腹らしい。
まぁ僕には関係無いことだ。


こんな彼女だが僕は毎日それなりに楽しく過ごしている。


「あ、次の授業の宿題してない。赤司くん見せてー。」
「殺人鬼のくせに真面目に授業受けるんだな。」
「当たり前でしょ。差別だよ、それ!
この御時世高校ぐらい出てないと何も出来ないじゃん。
だから見せて。」
「殺人鬼が時世気にするなよ。」
それは異常と異常の馴れ合いでしかない
(けれど意外にも心地いいものだった)



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